普通借家契約と定期借家契約の違いと注意点

建物を貸す・借りるときには、当事者間で建物賃貸借契約(いわゆる借家契約)を結びます。このとき、現在は普通借家契約と定期借家契約のどちらかを選ぶのですが、以前までは普通借家契約で結ばれていました。

しかし、良質な賃貸住宅等の供給の促進に関する特別措置法によって借地借家法が改正され、それまでなかった定期借家契約が登場します。

賃貸住宅では以前として普通借家契約が多いのですが、定期借家契約を選ぶことができるようになって、貸主・借主共に選択肢が広がりました。

この記事では2つの契約方法を説明していきますが、どちらで契約するほうが得というものではありません。両方にメリットとデメリットがあり、ケースバイケースで使い分けることが大切になります。

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普通借家契約とは

一般的には借家契約と言えば普通借家契約を指し、従来からある契約方法です。

契約方法

口頭でも書面でも契約は有効に成立します。しかしながら、不動産会社が仲介する賃貸物件では書面を作成するので、口頭契約があるとすれば親族や知人同士などでしょう。

契約期間

期間を1年未満とする契約はできず、期間が1年未満の契約は、期間の定めがないとされます(借地借家法第29条第1項)。賃貸住宅に住んだことがある人なら知っているように、大抵の契約は2年間で行われます。期間が長いほうは無制限です。

契約更新

正当事由がない限り、貸主は契約更新を拒絶できません(借地借家法第28条)。借主が契約更新を望まないときは、当然に更新されず契約終了です。

中途解約

中途解約は特約に従います。貸主からは6か月前、借主からは1か月前~3か月前の予告で解約とする特約が一般的です。ただし、貸主からの解約申し入れに借主が合意しないときは正当事由を必要とするため、貸主からの中途解約は難しいです。

普通借家契約は借主が保護されている

貸主と借主の立場を考えると、契約更新できずに住居を失う借主のほうが立場は弱いはずです。経済的にも、貸すことができる住宅を持つ貸主と、家を持たず賃貸住宅を借りる借主では、借主のほうが弱者であることは多いでしょう。

そこで、安定した居住を保護する目的から、借地借家法は貸主の契約更新拒絶・解約申し入れに対して、正当事由を必要とする規定を設けました。解約に正当事由を持たない貸主は、借主の意向によって契約更新・契約終了が左右されます。

借主にとっては、自分の意思で契約更新・契約終了できるほか、特約に従った予告をすれば中途解約もできますから、何ら不満のない制度です。

普通借家契約のメリット

借主保護の性質が強い普通借家契約は、そのメリットも借主寄りです。

借主のメリット
  • 退去のタイミングを自分で決めることができる
  • 正当事由がない退去請求に対抗できる
貸主のメリット
  • 定期借家契約よりは入居者を集めやすい可能性
  • 家賃を低めに設定する必要がない

普通借家契約のデメリット

普通借家契約のデメリットは、主に貸主にとって重要です。

一度契約してしまうと容易に退去してもらえないため、貸主から出て行って欲しいタイミングでは普通借家契約が仇となるからです

借主のデメリット
特になし(あるとすれば定期借家契約よりも家賃が高め)
貸主のデメリット
  • 契約更新の拒絶に正当事由を必要とする
  • 契約終了(入居者の退去)をコントロールできない

定期借家契約とは

平成12年3月1日から導入され、普及には至っていませんが今後増えると思われます。

契約方法

書面契約が必須で、口頭契約は普通借家契約と扱われます。なお、借地借家法上は「公正証書による等書面によって契約をするときに限り」認められる契約ですが、公正証書である必要はありません。また、期間を定めた契約で更新がなく、期間満了で契約が終了する旨を借主に書面で交付する義務もあります(借地借家法第38条第2項)。

契約期間

期間に制限はなく、普通借家契約で認められない1年未満の契約が可能です(借地借家法第38条第1項後段)。期間が長いほうも無制限です。

契約更新

定期借家契約には、そもそも更新という考え方がありません。契約期間が満了すれば契約終了です。ただし、契約更新はなくても延長・再契約は可能ですから、貸主・借主が合意すれば延長・再契約をして、継続状態にすることは可能です。

契約終了の通知

契約期間が1年以上のときは、契約期間満了の1年前から6か月前までの間に、貸主から契約が終了することを通知しなくてはなりません(借地借家法第38条第4項)。通知を怠っても、通知から6か月を経過すれば契約は終了しますが、契約期間が1年以上の規定であることを利用して、1年に満たない364日の契約にする方法も使われるようです。

中途解約

200㎡未満の建物では、借主のやむを得ない事情があれば、1か月前の解約申し入れによって中途解約が認められます(借地借家法第38条第5項)。このケースの中途解約は、法律上の規定があるので特約がなくても可能です。その他の中途解約は特約に従います。

定期借家契約が必要になった背景

普通借家契約による更新拒絶・解約申し入れの制限は、弱者の借主を保護しますが、一部の悪質な借主には、居座ることができる法的な根拠を与えるのと等しいです。

また、空き家・空き部屋が生まれ、その所有者が賃貸を考えていても、返してもらえないリスクがあるのでは、良質な住宅ストックの流通を妨げることにも繋がってしまいます。その結果、借主にとっても賃貸住宅の選択肢を狭めることになるでしょう。

このような背景から、契約期間の満了で確定的に契約が終了する定期借家契約が、平成12年3月1日から可能になって現在に至ります。

定期借家契約が利用されやすい賃貸経営

定期借家契約が特に求められるのは、契約期間満了によってどうしても契約を終了させたいケースです。定期借家契約が登場してからは、賃貸経営の手法もかわりつつあり、特定の期間だけを貸したい貸主には歓迎されています。

転勤期間中だけ空き家を貸し出すリロケーション

転勤から戻るタイミングで家が空いていないと困りますので、定期借家契約が使われます。

他人同士が建物の一部を共有して生活するシェアハウス

トラブルを起こした入居者を、契約更新せず確実に退去させるには定期借家契約が便利です。

短期間の契約になるウィークリー・マンスリーマンション

1年未満の契約にするためには、定期借家契約が不可欠です。

定期借家契約のメリット

定期借家契約のメリットは契約期間に制限がないことで、心配なら短期間の契約で様子を見て、問題なければ延長・再契約にするといった柔軟な対応を可能にします

借主のメリット
  • 一般的には家賃相場が安くなる
  • 更新がないことで入居審査が緩和される傾向
貸主のメリット
  • 1年未満の短期間でも貸すことができる
  • 契約終了を貸主からコントロールできる

注意したいのは、悪質な借主が契約終了後も居座っているとき、最終的には明け渡し請求訴訟によらなければ退去してもらえないので、定期借家契約でも明け渡しが確約されるとは限りません

それでも、契約が終了していることは、明け渡し請求において正当な根拠になることは間違いなくメリットになるでしょう。

定期借家契約のデメリット

定期借家契約で貸主が受けるメリットは、反対の立場の借主には安定した居住を確保できないリスクを伴います

借主のデメリット
貸主の都合で再契約できないと退去しなければならない
貸主のデメリット
家賃を安くしないと入居者が集まりにくい

普通借家契約と定期借家契約を比べた場合、借主にしてみると、同じ家賃なのに定期借家契約を選ぶ理由はありません

定期借家契約は、賃貸経営の自由度を上げたとも言えるのですが、定期借家契約にしてまで入居率・収益性を下げたくない貸主も多いでしょう。

心配なときは、借主が重大な問題を起こさなれば再契約をする特約を付けたり、契約終了前の事前通知で貸主から再契約の意思を示すなど、工夫すれば借主の不安感は和らぐと考えられます。

普通借家契約と定期借家契約の比較

これまで説明した違いを表にまとめました。

普通借家契約定期借家契約
契約方法口頭契約または書面契約書面契約(公正証書である必要はない)のほか更新がなく期間満了で契約が終了する旨を書面で交付しなければならない
契約期間1年以上(1年未満は期間のない契約とされる)契約期間に制限はない
契約更新借主に更新の意思がない又は貸主が正当事由で更新拒絶した場合を除き契約は更新される契約更新はなく延長・再契約によって継続状態にすることは可能
契約更新料一般には家賃の1ヶ月分が相場契約更新がないので契約更新料もないが再契約料などの名目で家賃1ヶ月分が相場
契約終了借主に更新の意思がない又は貸主が正当事由で更新拒絶した場合のみ契約終了契約期間満了で契約終了(1年以上の契約では貸主に事前通知義務あり)
中途解約貸主からは6ヶ月前、借主からは1ヶ月前~3ヶ月前の予告で解約可能とする特約が多い200㎡未満の建物では借主のやむを得ない事情で中途解約が認められ、その他の建物は特約に従う

まとめ

普通借家契約と定期借家契約のどちらが良いとは言えませんが、貸主なら定期借家契約を検討する余地は十分にあります。

定期借家契約があまり普及していないのは、貸主に若干手間が増えること以外にも、実は仲介する不動産業者が面倒を嫌って消極的だという側面もあるようです。

借主にとっても、家賃が安くなって入居しやすい物件が多いほど助かりますから、将来のリスク回避への投資だと考え、家賃を下げて定期借家契約を活用することは、賃貸経営におけるひとつの手法となるでしょう。

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