仲介手数料が発生するタイミングと売買契約の解除

不動産の売買では、仲介してもらった不動産会社(仲介業者)に仲介手数料を支払います。不動産会社は、広告や内見対応、諸手続の代行など、人を使って営業活動を行うため、その報酬として仲介手数料が存在することに異論はありません。

しかし、せっかく成立した売買契約が何らかの理由で解除されてしまうと、実際には売買されていないのですから、当事者(売主・買主)にとっては無意味でしょう。

売買契約が途中で解除された場合、仲介手数料はどうなるのでしょうか?

仲介手数料は決して少ないものではなく、売買価格によっては一般住宅でも数百万円になるため、売買されなかったのに支払うのはかなりの負担です。

売買契約の解除理由には色々あり、どのように解除されたのかでも仲介手数料の取扱いは変わってきます。不動産会社と交渉可能なケースもあるので、請求されるまま支払わないようにしましょう。

仲介手数料は売買契約成立で請求権が発生

不動産会社に仲介手数料の請求権が発生するのは、売主と買主を引き合わせて、合意による売買契約が成立した時点です。

一般的には、契約内容を記載し、宅地建物取引士(以前の宅地建物取引主任者)による記名押印した書面の交付がそのタイミングです。

その書面は、宅地建物取引業法第37条の規定によるもので37条書面と呼ぶのですが、37条書面は売買契約書で代えられることが多く、売主・買主が売買契約書を受け取ったら、原則として仲介手数料は約定した「満額」の請求権があります。

したがって、売買契約後に契約解除となっても、不動産会社に落ち度がない限り、仲介手数料を満額請求されても文句は言えません。

売主と買主を引き合わせて、売買契約を締結させるという仲介の本質的な業務は成果を上げ、有効な契約が現実に成立しているからです。

実際は半額ずつ2回で支払うケースが多い

ところで、売買契約書の取り交わしは、あくまでも契約を結んだに過ぎず、契約の履行(代金の決済、所有権移転登記、物件の引渡し)は契約後ですから、売買契約書だけでは取引が完了しておらず、契約時に満額ではトラブルの元です。

そこで、売買契約時に半額、取引完了時に半額と分けるケースが多く、これは旧建設省からの行政指導によって、現在でも慣習として行われているものです。

ただし、仲介手数料が半額ずつの支払いになる(媒介契約で定められている)としても、それはあくまでも媒介契約における特約に過ぎないと解されており、仲介手数料が半額ずつの請求権に分かれているという概念はありません。

よって、手数料が半額ずつ2回で支払うケースでも、最初の半額を支払う売買契約締結時に、請求権としては満額分発生しているところ、残りの半額は取引完了時に請求を留保した形になっているだけと考えられています。

売買契約の解除では見解が分かれる

仲介手数料の請求権が、売買契約の成立で発生している点について争いはなく、見解が分かれるのは売買契約が解除された場合の請求についてです。

契約解除でも満額請求を認めた判例もあれば、減額が相当とした判決もあります。

減額した判例では、売買の当事者が不動産会社へ仲介を依頼するとき、売買契約の先にある取引の完了までを期待しているのであって、仲介手数料は「取引の目的が達成された場合を想定してその金額が定められていると解するのが相当」としています。

このような判断に基づくと、売買契約が結ばれても、契約の履行がされなければ満額の請求は相当ではないということになり、契約の解除で仲介手数料は減額されるべき性質を持っていると言えます(上記判例では8割に減額されました)。

ただし、減額は売買契約の解除により不動産会社の貢献度が減っているからで、不動産会社の業務を狭義の仲介(売主と買主を引き合わせて売買契約の締結に尽力する業務)と、契約の履行をサポートする業務に分けているからではありません。

国土交通省の標準媒介契約約款に準拠した媒介契約であれば、「登記、決済手続等の目的物件の引渡しに係る事務の補助」も不動産会社の義務とされており、売買契約から引渡しの補助事務までが業務です。

業務内容に応じた仲介手数料が適切

仲介手数料は、法定の限度額が決まっているだけで、業務内容に応じて決めるのが適切です。そうしないと、不動産会社が多大な尽力をしたケースでも、容易な仲介をしただけでも同じ報酬ではおかしいでしょう。

例えば、売主・買主とも不動産取引は初めてで、広告掲載から内見対応、交渉の調整、法的リスクや重要事項の説明、住宅ローン対応、その他の諸手続サポートまで全て不動産会社に頼るケースでは、不動産会社は多くの労力を伴います。

その一方で、売主と買主は既に合意ができており、単に売買契約を当事者で結ぶのはリスクが高いと考えて不動産会社に依頼するケースでは、不動産会社は法的に不可欠な事務負担をするだけで、その労力は小さいものです。

両者が同じ売買価格であったとき、仲介手数料までも同じであるのは(同じであることに差し支えはないですが)、労務に対する報酬という観点からずれてしまうので、労力の小さい後者は仲介手数料も少なくなるべきでしょう。

現実にも、買主に対する仲介業務は、売主に対する仲介業務に比べて労力・費用が小さいことから、買主からの仲介手数料を半額や無料にするケースが存在します。

このように考えると、売買契約から引渡しの補助事務までを業務とする媒介契約では、売買契約が解除されることで不動産会社の労務は減るのですから、いくら満額請求が可能とはいえ、減額する余地は十分にあると言えます。

契約解除で仲介手数料が発生しないケース

ここまでは、売買契約が成立したら仲介手数料は満額請求が可能で、しかしながら業務内容に応じた金額が適切と説明してきましたが、契約解除の理由によっては仲介手数料が発生しないケースも出てきます。

1.無効な契約

代表的には錯誤による無効です。錯誤とは、簡単には思い違いのことで、錯誤がなければ売買契約はされなかったのですから、契約は無効となります(重過失による錯誤ではないことが前提)。

売買契約が無効になれば、当然に契約は成立していなかったことになり、成功報酬である仲介手数料の請求権は発生しません。

2.契約の取消し

契約が取消しになる例としては、騙されて契約した場合や脅されて契約した場合が該当します。最初から無効な契約と違い、騙されたり脅されたりしても、一旦は本人の意思で契約している以上、契約は有効に成立していると解されています。

その代わり、騙されたり脅されたりした人が取り消すことで契約は無効になる一方、後から契約内容を認めること(追認といいます)もできる点が、無効な契約とは大きく異なります(無効な契約はいつまで経っても無効です)。

契約が取り消された場合でも、契約時に遡って無効となるため、やはり仲介手数料の請求権は発生しません。受領済みの仲介手数料は変換する必要があります。

3.解除条件が成就した

解除条件とは、ある条件が成就したら契約が解除になることを意味します。不動産の売買契約で代表的な解除条件には、ローン特約(融資利用の特約)があります。

ローン特約とは、買主が金融機関等から購入資金を借り入れることができない場合に、売買契約を白紙解除できるようにするものです。ただし、買主は住宅ローンの借り入れを遅滞なく誠実に進めることが条件です。

売買契約にローン特約があっても、契約自体は成立して効力を持つため、一旦は仲介手数料を支払うことも多いですが、ローン特約により契約が解除された場合には、支払済みの仲介手数料が返還されます。

4.停止条件が成就しなかった

停止条件は解除条件と逆の作用を持ち、ある条件が成就することで契約の効力が発生することを意味します。停止条件が付く代表的な事例には、借地権(賃借権)の売買と農地の売買があります。

借地権(賃借権)は、売主・買主が売買に合意していても、地主の承諾が得られないと売買できません。そこで、地主の承諾を停止条件として売買契約を結び、地主の承諾が得られたときに契約の効力が発生します。

農地でも、農業委員会(または都道府県知事)の許可(市街化区域では届出)がなければ売買できず、同じように許可(届出)を停止条件とします。

農地売買における許可(届出)は、売買に不可欠な法律で定められた要件であることから、当然に必要とされる条件を確認しているだけで、停止条件ではないとされます。

しかし、性質としては停止条件に類似しているため、この記事では停止条件としています。

停止条件がある場合、売買契約は成立しても停止条件が成就するまで効力は発生しないため、売買契約の成立時に仲介手数料を支払う必要はありません。したがって、停止条件が成就せずに契約が解除となっても、当然に仲介手数料は無しです。

ローン特約を停止条件とすることも可能です。その場合、買主がローンで融資を受けられないと売買契約の効力は発生しません。しかし、通常は解除条件でローン特約を定めるほうが多いようです。

契約解除で仲介手数料が発生するケース

契約解除で仲介手数料が発生しないケースでは、無効・取消しのように契約時点で当事者の意思表示に欠陥があるか、契約時点でも予測できる条件で契約が解除されています。

これら以外の理由で契約解除になると、売買契約の成立に費やした不動産会社の労力は正当に評価しなければならず、仲介手数料の発生は避けられません。

もっとも、本来であれば取引の完了で満額を受け取れるはずが、契約解除されるのは不動産会社にとって不測の損害でしかなく、解除の理由が不動産会社にない場合は、なおのこと満額請求されても争うのは難しいでしょう。

1.手付解除

売買契約の成立時には、買主から売主に手付金(売買価格の5%~10%程度)を支払うのが通常です。この手付金を買主が放棄するか、売主が受領した手付金と同額を買主に支払う倍返しによって、契約を解除するのが手付解除です。

手付解除は、当事者の都合で行われるものですから、不動産会社に落ち度がない限り、仲介手数料は満額請求できるとした見解が主流です。

ただし、実際にも満額請求するかというと、手付解除は解除した側に手付金の不利益を、解除された側に手付金の利益をもたらしているため、解除した側に仲介手数料を請求するのは酷ですし、解除された側は手付金の余裕があります。

したがって、解除された側には仲介手数料を請求しやすいのですが、解除した側への請求権は一部放棄し、売買契約時の半額のみで円満に解決することもあるでしょう。

また、手付金で仲介手数料が支払えないと、解除された側でも持ち出しになってしまうので、その辺の事情を考慮して請求額を決めることも十分に考えられます。

2.合意解除

手付解除と異なり、売主・買主の合意によって白紙解除(手付金は返還)するのが合意解除です。合意解除でも、一旦は成立した売買契約によって、仲介手数料は満額の請求権があり、請求権に影響はないとするのが一般的です。

とはいえ、取引が完了するまでに費やす労力よりは、契約解除で不動産会社の負担が減ることを理由に、減額交渉をすることは可能なはずです。

3.債務不履行による解除

債務不履行による解除では、例えば買主が代金を支払わない、売主が物件を引き渡さない・登記に協力しないなど、売買契約により発生している義務(債務)を履行しないこと、つまり契約違反による解除が該当します。

債務不履行による解除の場合も、合意解除と同様に仲介手数料の請求権には影響しないとする見解が支持されており、減額に応じるかどうかは不動産会社しだいです。

なお、債務不履行の場合には、解除された側が違約金や損害賠償を請求することもありますが、違約金や損害賠償金の発生と仲介手数料には何の関連もありません。

しかしながら、手付解除での手付金と同様に、違約金や損害賠償金の存在を考慮して仲介手数料を決めることも可能性としてはあるはずです。

まとめ

不動産売買の仲介手数料は金額が大きいので、契約が解除された後にその半額でも請求されると当事者には大きな負担です。

そうはいっても、不動産会社にしてみれば「契約が解除されたから仲介手数料は支払いません」では、タダ働きになって納得できないのは当然です。

仲介手数料の請求権は、売買契約の成立時(停止条件付契約を除く)に発生しているのですから、売買契約時の半額は諦めて、残りの半額を減額または免除してもらえないか、不動産会社と協議するのが妥当でしょう。

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