屋外にコンテナを設置して倉庫として使い、レンタル収納スペース、レンタルボックスなどの名称で賃料を取って貸す方法は、投資が小さく高利回りな運用として、需要が多い都市部を中心に広がりつつあります。
駐車場では大きな収益を上げられず、かといって賃貸住宅は投資が大きすぎるため、リスクの割に多くの収益を得られるコンテナ倉庫が人気なのです。
また、コンテナは重たいので、地上に固定せず置いているだけでも倉庫になりますから、入手して運んでさえもらえれば簡単に営業できることも利点でしょう。
ところが、コンテナ倉庫の取扱いについては従来から問題視されており、行政は指導強化に努めています。これからコンテナ倉庫を始めようとしている人も、既に始めている人も、無関係ではいられないので確認しておきましょう。
※コンテナ倉庫を使った土地活用は別記事で扱います。
土地に定着するコンテナは建築物
建築基準法第2条第1号は、土地に定着する工作物のうち一定のものを建築物と定義して、建築基準法の適用対象にしています。
建築基準法第二条第一号
一 建築物 土地に定着する工作物のうち、屋根及び柱若しくは壁を有するもの(これに類する構造のものを含む。)、これに附属する門若しくは塀、観覧のための工作物又は地下若しくは高架の工作物内に設ける事務所、店舗、興行場、倉庫その他これらに類する施設(鉄道及び軌道の線路敷地内の運転保安に関する施設並びに跨線橋、プラットホームの上家、貯蔵槽その他これらに類する施設を除く。)をいい、建築設備を含むものとする。
コンテナが鉄道や船舶で輸送用途で使われている限りは、移動する前提で一時的に地上へ置かれていても、建築物に該当しないことは理解しやすいはずです。
しかし、輸送用途から外れて地上に置かれると扱いは変わります。
地上にあるコンテナは、用途を問わず「屋根及び柱若しくは壁を有するもの」ですし、倉庫用途なら「倉庫その他これらに類する施設」に該当するでしょうから、土地に定着していれば建築基準法上の建築物となるのは疑いようもありません。
土地に定着するとは?
定着という言葉は、随時かつ任意に移動できない、つまり、その場所にあって、容易には動かせない状態が継続していると解釈されます。
コンテナ倉庫の場合、設置された場所で継続して使用することを前提としており、一度設置されれば固定をしていなくても容易に動かすことはできませんので、建築物に該当するというのが国土交通省の見解です。
ここは誤解も多いのですが、基礎と固定しなければ建築物ではないとする考えは、建築基準法の根本的な解釈を誤っています。
固定するから建築物、固定しないから建築物以外という考えは最初からなく、土地に定着する工作物が建築物です。建築物の判断は固定の有無ではなく定着の当否です。
よって、定着している(容易に動かせない)コンテナ倉庫は、固定されていることとは無関係に建築物として扱われ、定着しているのに基礎と固定されていないコンテナ倉庫は、違法建築物となって是正指導・是正命令の対象です。
もし、定着していないこと理由に建築物ではないと主張したいのなら、随時かつ任意に移動できて、継続的には使用していないことを証明しなくてはなりません。
動かす前提で一時的に置かれているだけのコンテナなら建築物ではなく、動かさずに使用し続ける前提で置かれているコンテナは建築物ということです。
建築物なら建築確認が必要
建築物であるからには、建築確認を必要とするので、建築基準法に適合していないとコンテナ設置もできないことになります。特に、多段積みのコンテナは構造耐力に問題が多く、単純に積み重ねただけで建築確認をクリアできることはないと思いましょう。
- 主要構造が腐食または腐朽している
- コンクリート(または同程度の強度を持つ)基礎がない
- 基礎はあるがコンテナと緊結されていない
- 多段積みでコンテナ相互が接合されていない
このような状態なら、間違いなく建築確認をクリアできませんし、そもそも輸送用コンテナは建築物の資材として使われる前提で作られていません。
したがって、建築基準法に対応した改造をしているコンテナ、もしくは最初から材質・強度等が建築基準法を前提に作られているコンテナが必要になるのです。
コンテナ倉庫を設置できない土地
倉庫用途としての建築確認申請には、「倉庫業を営む倉庫」と「倉庫業を営まない倉庫」の2種類あります。倉庫業を営む倉庫とは、倉庫業者が営業倉庫として使う倉庫のことで、施設設備基準を満たす必要があります。
倉庫業とは「寄託を受けた」物品の倉庫における保管を行う営業(倉庫業法第2条第2項)のことですから、物品を預からず収納スペースを貸すだけのコンテナ倉庫は、倉庫業に該当しません(そもそも倉庫業者は国土交通大臣の登録を受けます)。
「倉庫業を営む倉庫」と「倉庫業を営まない倉庫」の違い
コンテナ倉庫は営利目的で他人へ貸しているのに、倉庫業を営む倉庫に該当しないのは、建築基準法での倉庫業が倉庫業法での倉庫業を前提としているからです。
- 【倉庫業を営む倉庫に該当する】
-
- 倉庫の所有者が他人の物品を預かって保管する営業(倉庫業)で使われる
- 倉庫業が目的の賃借人へ倉庫を貸し出す
- 【倉庫業を営む倉庫に該当しない】
-
- 倉庫の所有者が自らの物品を保管する
- 倉庫業以外が目的の賃借人へ倉庫を貸し出す(←ここがコンテナ倉庫)
ですから、コンテナ倉庫では「倉庫業を営まない倉庫」で建築確認申請することになるのですが、コンテナ倉庫は全ての土地に設置できるとは限らず、知らずに土地やコンテナを購入しないよう気を付けたいところです。
用途地域による建築制限
市街化区域においては用途地域が定められており、建築基準法第48条は用途地域別に建築可能な建築物を制限しています。倉庫業を営む倉庫でも、倉庫業を営まない倉庫でも、建築物なら当然に用途地域の制限を受けます。
建築基準法第48条の規定に該当する建築物は、同法の別表第2で定められています。
第一種低層住居専用地域、第二種低層住居専用地域、第一種中高層住居専用地域では建築「できる」建築物を、それ以外の用途地域では建築「できない」建築物を規定しているのがポイントです。
建築基準法別表第2(い) 第一種低層住居専用地域内に建築することができる建築物
一 住宅
二 住宅で事務所、店舗その他これらに類する用途を兼ねるもののうち政令で定めるもの
三 共同住宅、寄宿舎又は下宿
四 学校(大学、高等専門学校、専修学校及び各種学校を除く。)、図書館その他これらに類するもの
五 神社、寺院、教会その他これらに類するもの
六 老人ホーム、保育所、福祉ホームその他これらに類するもの
七 公衆浴場(風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(昭和二十三年法律第百二十二号)第二条第六項第一号に該当する営業(以下この表において「個室付浴場業」という。)に係るものを除く。)
八 診療所
九 巡査派出所、公衆電話所その他これらに類する政令で定める公益上必要な建築物
十 前各号の建築物に附属するもの(政令で定めるものを除く。)
倉庫が含まれていないことに注意してください。建築できる建築物として倉庫がない以上、第一種低層住居専用地域にコンテナ倉庫を設置することはできません。
第二種低層住居専用地域と第一種中高層住居専用地域では、第一種低層住居専用地域に建築できる建築物の1~9に加えて、次の建築物も建築できます。
建築基準法別表第2(ろ) 第二種低層住居専用地域内に建築することができる建築物
一 (い)項第一号から第九号までに掲げるもの
二 店舗、飲食店その他これらに類する用途に供するもののうち政令で定めるものでその用途に供する部分の床面積の合計が百五十平方メートル以内のもの(三階以上の部分をその用途に供するものを除く。)
三 前二号の建築物に附属するもの(政令で定めるものを除く。)
建築基準法別表第2(は) 第一種中高層住居専用地域内に建築することができる建築物
一 (い)項第一号から第九号までに掲げるもの
二 大学、高等専門学校、専修学校その他これらに類するもの
三 病院
四 老人福祉センター、児童厚生施設その他これらに類するもの
五 店舗、飲食店その他これらに類する用途に供するもののうち政令で定めるものでその用途に供する部分の床面積の合計が五百平方メートル以内のもの(三階以上の部分をその用途に供するものを除く。)
六 自動車車庫で床面積の合計が三百平方メートル以内のもの又は都市計画として決定されたもの(三階以上の部分をその用途に供するものを除く。)
七 公益上必要な建築物で政令で定めるもの
八 前各号の建築物に附属するもの(政令で定めるものを除く。)
どちらの用途地域にも、建築できる建築物として倉庫はなく、第一種低層住居専用地域と同様にコンテナ倉庫は設置できないことがわかります。
結果として、倉庫業を営む倉庫であるか、倉庫業を営まない倉庫であるかに関係なく、用途が倉庫である建築物は、第一種低層住居専用地域、第二種低層住居専用地域、第一種中高層住居専用地域のいずれにも建築できないということです。
収納スペースを貸すだけで、倉庫業ではないのだからコンテナ倉庫に用途地域の制限はないと、勘違いしているケースが多いので気を付けましょう。
他の用途地域では建築できない建築物が規定されており、その中に倉庫業を営まない倉庫は規定されていないため、コンテナ倉庫を設置することが可能です。
ちなみに、倉庫業を営む倉庫は、第二種中高層住居専用地域、第一種住居地域、第二種住居地域でも建築できない建築物として制限されています。
倉庫を建築できない用途地域
- 【倉庫業を営まない倉庫(コンテナ倉庫含む)】
- 第一種低層住居専用地域、第二種低層住居専用地域、第一種中高層住居専用地域
- 【倉庫業を営む倉庫】
- 第一種低層住居専用地域、第二種低層住居専用地域、第一種中高層住居専用地域、第二種中高層住居専用地域、第一種住居地域、第二種住居地域
市街化調整区域による建築制限
市街化調整区域は建築を制限するために区分されており、コンテナ倉庫だけではなく、例外的な建築物を除いて建築許可が必要です。また、舗装や基礎工事など敷地の区画形質を変更するときは開発許可も必要です。
建築許可・開発許可は、公益性が高い場合か、やむを得ない事情がある場合などしか認められず、コンテナ倉庫を設置して貸し出すことが目的では、ほぼ許可が下りないと考えて良いでしょう。
違法コンテナ倉庫の取り締まり
国土交通省は、コンテナ倉庫が建築物に該当するとして、建築基準法に適合しないコンテナ倉庫を、違法建築物で是正指導・是正命令をするように都道府県へ通知しています(平成16年12月6日国住指第2174号)。
当然ながら市町村にも周知されますから、土地に置いただけのコンテナ倉庫は、現状でどの市町村でも違法建築物扱いです。
しかしながら、コンテナ倉庫以外にも違法建築物は多数あり、また、コンテナ倉庫は他の建築物よりも設置が容易(運んで置くだけ)であることから、現実問題として違法なコンテナ倉庫を把握するまでには至っていないようです。
そこで、違反対策を徹底するよう通知されました(平成26年12月26日国住安第5号)。
2004年には、横浜市で違法コンテナ倉庫に除却命令(使用禁止命令を含む)が発動されて、設置者が撤去した経緯もあります。後手に回っている行政が、いつ積極的に違法コンテナ倉庫の排除に乗り出すかわかりません。
まとめ
コンテナ倉庫の収益性は高く、有効活用できない土地から少しでも収益を上げようと、所構わず設置された経緯があります。
建築物として扱われるなど想定すらしなかった経営者は是正に驚き、最初から建築物だとわかっていた経営者は、是正を受けるまでの覚悟でコンテナ倉庫を使って、うまく収益を上げていたはずです。
物置なら良くて倉庫ならダメなのか? という疑問を持つかもしれませんが、住宅に附属する物置と、主体的に存在する倉庫では扱いが違います。
これからコンテナ倉庫を考えているのなら、くれぐれも建築基準法には気を付けましょう。設置直後に撤去するのでは、あまりにも損失が大きいからです。