不動産を売買したり賃貸借したりするとき、売る側と買う側、貸す側と借りる側のほぼ全員が、不動産会社の仲介を利用するでしょう。
ところで、不動産会社に仲介してもらい、売買や賃貸借が成立すると支払うのが仲介手数料です。この仲介手数料は法令で規制されており、不動産会社が無制限に請求できるものではありません。
しかし、実態としては不動産会社の請求に応じて支払うだけの費用で、消費者側が交渉する余地はないのが悪しき慣習になっています。
そこで、この記事では不動産会社が請求してくる仲介手数料の計算方法とその相場、最近多くなっている仲介手数料無料・半額についても解説していきます。
仲介手数料で大事な3つのルール
まず、仲介手数料の基本的なところを押さえておきましょう。
仲介手数料には大事な3つの決まりごとがあります。これを知っておくことで、仲介手数料に関するトラブルはかなり防ぐことができます。
仲介手数料には上限がある
売買と賃貸借は違いますが、どちらにおいても仲介手数料は法令等で上限が定められています。そのため、上限を超えた仲介手数料を請求する時点で、悪徳だと言わざるを得ません。
また、法令等で定められているのは上限であって、上限より安い仲介手数料であることに制限はなく、仲介手数料が法律で決められていると主張して、上限額を請求してくる不動産会社は決して褒められたものではないでしょう。
不当な請求をしてくる不動産会社は、消費者の無知に付け込んでくるのが常套手段です。そのような不動産会社とは、仲介手数料の交渉以前に手を切るべきです。
仲介手数料は契約成立が条件
売買契約・賃貸借契約の成立がないと、不動産会社は仲介手数料を請求できないことになっています。
仲介に対する手数料だからといって、売主・貸主に希望者を紹介するだけで請求できるのではなく、契約が成立しないと手数料の請求権もないということです。
これは、物件を買いたい側・借りたい側でも同じです。物件を何軒案内してもらっても、契約が成立するまでは一切仲介手数料を支払う必要はありません。
仲介手数料以外は基本的に不要
不動産会社は、売主と買主、貸主と借主を引き合わせる以外にも、物件を広告したり、希望者の内見に立ち会ったりと、仲介業務は多岐に渡ります。
しかし、通常の営業費用は仲介手数料に含まれ請求できません。ただし、売主・貸主が特別に依頼した業務で発生した費用は、実費を請求することが可能です。
したがって、多くの不動産会社は広告料などの名目を使い、売主・貸主から仲介手数料以外の費用も請求しているのが実情です。
売買の仲介手数料
売買の仲介手数料は、売買価格に応じた次の手数料率で上限が求められます。
売買価格を区分した金額 | 仲介手数料(消費税別) |
---|---|
200万円以下の金額 | 5% |
200万円を超え400万円以下の金額 | 4% |
400万円を超える金額 | 3% |
売買価格全体に一定率で求めるのではなく、売買価格を200万円で区分して、それぞれが異なる手数料率である点に注意してください。
売買価格が100万円:100万円×5%
売買価格が300万円:200万円×5%+100万円×4%
売買価格が500万円:200万円×5%+200万円×4%+100万円×3%
こうして求めていくのですが、売買価格が400万円を超えると3%に固定されることを利用して、少し工夫してみましょう。
売買価格が400万円を超える場合 | 仲介手数料(消費税別) | 3%との差額(消費税別) |
---|---|---|
200万円以下の部分 | 5% | 200万円×2%=40,000円 |
200万円を超え400万円以下の部分 | 4% | 200万円×1%=20,000円 |
400万円を超える部分 | 3% | 0円 |
このように、売買価格が400万円を超えると、400万円以下の部分では、3%との差額が固定額になりますので、全体を3%の手数料にしたとき、仲介手数料は3%との差額を加えて、次のように計算できます。
仲介手数料(消費税別)=売買価格×3%+6万円
※売買価格が400万円を超える場合
実際には消費税を加えた金額です。また、この計算式で求められるのは上限であって、上限より安い仲介手数料でも問題ありません。
仲介手数料は売主と買主の双方で発生
売買における仲介手数料は、売主と買主の双方に請求することができます。
売主の不動産会社と買主の不動産会社が違うことは珍しくなく、それぞれの不動産会社が、紹介した顧客から仲介手数料を請求します(片手取引といいます)。
もし、売主の不動産会社が直接買主を見つけると、その不動産会社が売主と買主の双方に仲介手数料を請求可能です(両手取引といいます)。
一度の取引で、売主と買主の双方からの仲介手数料を得た場合、単純に収入が2倍になるため、不動産会社はできるだけ両手取引を目指そうとします。
実は、この両手取引が「囲い込み」と呼ばれる状況を引き起こしており問題視されているのですが、別記事にしたのでご覧ください。

売主の仲介手数料
売主の仲介手数料は、仲介依頼するときの契約(媒介契約といいます)で定められます。通常、媒介契約書は国土交通省の標準媒介契約約款を用います。
宅地建物取引業法施行規則の規定による標準媒介契約約款 – 国土交通省(PDF)
標準媒介契約約款では、仲介手数料(報酬)が、限度額の範囲内で協議によって定める旨を規定しています。つまり、媒介契約の時点では決まっていません。
これは当然のことで、不動産の売買では、売主と買主の交渉で売買価格が決まり、売買価格で仲介手数料が決まる以上、媒介契約の時点では不明だからです。
しかし、仲介手数料が法定上限なら、「成約価格×3%+60,000円と消費税の合計額」のように、仲介手数料は約定報酬として明記されるので、媒介契約の時点から協議しておく必要があります。
媒介契約書へハンコを押す前に、報酬と書かれた仲介手数料を確認して、値下げ交渉したいのなら試してみましょう。
買主の仲介手数料と媒介契約
買主を仲介した不動産会社には、買主へ仲介手数料を請求しますが、不動産会社との媒介契約書(または仲介手数料の支払約定書)に買主が署名するタイミングは、多くが売買契約の成立直前または同時です。
その理由は、検討中の買主が現れるたびに媒介契約書を用意すると、不動産会社の事務があまりにも煩雑ですし、運よく売買契約が成立するならまだしも、ほとんどが無駄になるからです。
仲介手数料の請求権が、売主と買主の売買を仲介した事実と、売買契約の成立によって発生することを考えると、売買契約の成立前後で買主との媒介契約を書面締結するのが、実務上では合理的と言えるでしょう。
なお、媒介契約書が売買契約の成立後になることを不思議に思うかもしれませんが、媒介契約は、買主が物件の仲介を不動産会社に依頼し、不動産会社が承諾した時点で成立しています。
したがって、売買契約の成立前に、買主と不動産会社との媒介契約は成立しており、その書面締結が売買契約後になると思えば、違和感はなくなるのではないでしょうか。
いくら請求権があるといっても、売主の不動産会社が、広告等の営業経費を支出しているのと異なり、連絡調整程度の簡単な仲介をしただけで、買主の不動産会社が法定上限の仲介手数料を請求できるかどうかは、消費者視点なら疑問です。
仲介した事実は消えないため、売買契約成立後に争っても不動産会社の請求権は失われませんが、貢献度に応じた報酬となるべきで、交渉の余地は十分にあると考えられます。
賃貸借の仲介手数料
賃貸借の仲介手数料は、上限が賃料の1か月分以内(消費税別)と定められています。これは、貸主と借主から受け取ることができる「合計額」が1か月分以内です。
そのため、不動産会社は貸主と借主の一方から1か月分を受け取っても、双方から0.5か月分を受け取っても、違う比率で受け取っても問題ありません(賃貸住宅を除く)。
ただし、合計額が最大1か月分と決まっているので、間に入る不動産会社が複数あると、仲介手数料を山分けします。
賃貸住宅の仲介手数料
賃貸住宅では、貸主と借主の一方から受け取ることができる仲介手数料が、家賃の0.5か月分以内(消費税別)とされています。つまり、賃貸住宅の仲介手数料は、双方から最大0.5か月分ずつ合計最大1か月分です。
しかしながら、一度でも部屋を借りたことのある人なら、1か月分の仲介手数料を不動産会社に支払った記憶はないでしょうか?
これは、仲介の依頼者から承諾を得ている場合に、最大1か月分の仲介手数料を受け取ることができる例外規定があるからで、今でも広く浸透しています。
だからといって、言われるままに借主が1か月分を支払う道理はありません。何となく支払っているとしたら、減額交渉の機会を逃しているということです。
借主が1か月分を負担しているケースがほとんど
借主が最大0.5か月分だと知らなければ、仲介手数料1か月分と記載された入居申込書や重要事項説明書に、疑いもせず署名(承諾)してしまいます。もし、仲介手数料1か月分を承諾しないと、不動産会社は「他をあたってください」と言ってくるでしょう。
しかし、それもおかしな話で、賃貸借契約は貸主と結ぶのですから、不動産会社が貸主を代理している(契約について委任されている)場合を除き、仲介しているだけの不動産会社は賃貸借契約を解除できるはずがないですよね。
争いがあるのは、媒介契約上の報酬(仲介手数料)であって、賃貸借契約ではありません。
つまり、借主の無知に付け込んで1か月分を請求するか、1か月分の支払いを拒む借主には、いかにも賃貸借契約上の条件であるかのように装って、借主から1か月分を取ろうとしてくるのです。
実際には大家も支払っている?
借主が仲介手数料を1か月分支払うと、貸主(大家)は仲介手数料を支払わなくて済みます。何だかずるいように思えますが、そうとも限らないのが不動産業界です。
大家は大家で、不動産会社に広告料や業務委託料などを支払うことが多く、これは不動産会社が法規制を逃れるために名目を変えているだけで、実質的には仲介手数料のような意味合いのお金です。
他にも、契約を決めた不動産会社の担当者に、大家から心付け(いわゆるバックマージン)を渡すことも比較的良く行われます。心付けがあれば、担当者も優先して紹介するなど頑張りますからね。
結局は、不動産会社が儲かるようにできているということです。
仲介手数料を無料や半額にできる理由
最近は、仲介手数料無料や仲介手数料半額と宣伝して、顧客を集めようとしている不動産会社が目立つようになってきました。
これは、消費者にとって嬉しい流れで、そもそも当然のように上限額で請求してくるほうがどうかしています。仲介業界にも競争があってしかるべきでしょう。
しかし、仲介手数料は不動産会社にとって唯一の収入であるはず。なのになぜ? と思いますが、それほど深く考えなくても実現できます。
仲介コストは以前ほどかからない
折り込みチラシ、ポスティング、情報誌への掲載など、主に紙媒体で展開していた不動産の広告は費用対効果が悪く、インターネットの普及によって、世界中のどこからも見ることができる広告を、Webで簡単に提供できるようになりました。
また、指定流通機構(レインズ)が整備されて、不動産会社が物件情報を共有できる環境になったことも大きいでしょう。
つまり、消費者も不動産会社も、インターネットへの接続環境さえあれば物件探しに困らなくなり、わざわざ紙の広告を印刷して、人海戦術でポスティングしたり、特定の地域に折り込みチラシを入れたりする必要はなくなったのです。
となれば、不動産会社の広告費も必然的に下がるのですから、競争を勝ち抜くために仲介手数料を値下げして、顧客を確保しようとするのは自然の理です。
今どき、上限額を当たり前に請求してきたり、ましてや法律で決まった額だと言ってきたりする不動産会社は、そのうち淘汰されてもおかしくない時代まできました。
売買の仲介手数料無料や半額
売買の仲介手数料は、売主と買主の両方に上限まで請求することができます。
このとき、ひとつの不動産会社で売主も買主も仲介するなら、売主だけ無料、買主だけ無料、もしくは売主も買主も仲介手数料半額といった調整は可能なはずです。
もちろん、本音としては両方から上限で貰いたいでしょうが、自分の仲介で売買されなければ1円にもならないので、無料や半額で顧客を確保しています。
対して、売主と買主の一方だけを仲介している場合には、仲介手数料を無料にすると収入がなくなり、値引きはできても無料まではできないでしょう。
場合によってはキャッシュバックも
現在の仲介手数料事情は過熱気味で、売主と買主の両方を仲介する両手取引では、一方の仲介手数料を無料にするだけではなく、もう一方から仲介手数料を得られたときに、無料+キャッシュバックすら行われています。
特に、一方が不動産業者の場合には、業者から仲介手数料を上限額で受け取って、個人消費者には仲介手数料を無料にした上でキャッシュバックしています。
売買価格の一定率という矛盾
例えば、1,000万円の物件を仲介するのと、5,000万円の物件を仲介するのとでは、仲介の手間・費用が5倍に増えるということはまず考えられません。
しかし、仲介手数料は売買価格の一定率で計算されることから、売買される不動産が高額になればなるほど、不動産会社の利益は多くなります。
この仕組みを考えると、地価がとても低い土地や古家を売買する場合には、仲介手数料も安いので上限額で仕方がないとしても、ある程度の価格になれば、上限額で仲介手数料を支払うのは、相当ばかばかしいと感じるはずです。
仲介手数料の安さだけで、安易に不動産会社を決めてしまうのは賛成できませんが、仲介手数料の交渉もできない不動産会社は遠慮したいところですね。
賃貸の仲介手数料無料や半額
賃貸の場合、仲介手数料の上限が賃料の1か月分と少額なため、不動産会社が身銭を切って無料や半額にすることなどまずありません。
借主に対して無料・半額なら、貸主が仲介手数料を負担している、貸主に支払われる礼金をそのまま不動産会社にバックする、広告料や業務委託料の名目で貸主が別途支払っているなどです。
いずれにせよ、見かけ上の仲介手数料が無料・半額でも、実際には何らかのお金が動いているということですね。
要するに不動産会社の一人勝ち
少し言いすぎかもしれませんが、法令の趣旨どおりに賃貸の仲介業務をしている不動産会社などまれです。語弊があるので言い直すと、法令には触れない仕組みで、利益確保している不動産会社がほとんどです。
賃貸経営で最もダメージが大きいのは借り手がいないことですから、貸主は余計な費用が発生してでも借りてもらいたい事情を持っています。
不動産会社は、自社で扱う物件はもちろん、他社で扱う物件も含めて、利益が大きい順に顧客へ紹介するので、広告料を出す大家が優先されます。
つまり、「借りて欲しければ広告料を出せ」という図式になっており、その費用は貸主が負担、ひいては借主への負担と繋がっていくわけです。
まとめ
売買の仲介手数料と賃貸の仲介手数料は異なりますが、いずれにしても正当な対価として支払う仲介手数料は、消費者も納得できるはずです。
しかし、どう考えても高すぎると思えるケースが存在しますので、その場合は積極的に交渉してみましょう。
最近流行の仲介手数料無料や半額は、その不動産会社が特殊なのではなく、どの不動産会社でも企業努力しだいで実現可能ですし、今は不動産会社を選ぶポイントに仲介手数料が含まれる時代と言っても過言ではありません。
これまで普通だった法定上限の仲介手数料は、単なる悪しき習慣でしかなく、競争で少しは消費者に還元されるべきです。