共有不動産を賃貸するときは過半数持分の同意?全員の同意?

共有名義の不動産は、単独名義の不動産と違って活用に制限があります。

複数人で共有しているのですから、一人の意見で自由にできないのは当たり前だとも言えるのですが、全体を勝手に売却できないのは仕方がないとしても、賃貸まで制限されると、全員一致以外は何も活用できなくなりますよね。

共有不動産の賃貸は解釈が少し複雑になっており、持分の過半数で賃貸可能な場合もあれば、共有者全員の同意を必要とする場合もあります

その違いはどこにあるのか。これが今回のテーマです。

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共有物と変更・管理・保存

共有不動産の賃貸を説明する前に、民法上での「共有物」に対する扱いを理解しておかなくてはなりません。

民法は、共有物について「持分に応じた使用をすることができる」と規定していますが(民法第249条)、不動産の場合には、名義を共有にできても持ち分に応じた物理的な使用ができません。

例えば、兄弟姉妹3人が実家を相続した結果、各自3分の1の共有になったとして、実家を3分の1に分けて各自が使用することは現実として不可能なわけです。

そこで、民法は共有物の変更・管理・保存を行うにあたり、その意思決定に必要な条件(共有者の同意)を次のように定めています。

行為必要な同意根拠
変更共有者全員民法第251条
管理持分価格の過半数民法第252条本文
保存共有者単独民法第252条ただし書き

変更・管理・保存の違いは次のようになっています。

共有物の変更

変更行為には、物理的に性質・形状を変える行為のほか、法律的な処分行為も含まれると解されています。共有物の変更は、共有者全員の同意が必要です。

民法 第二百五十一条
各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、共有物に変更を加えることができない。
e-Gov 民法

変更行為が、共有者全員の同意を必要とするのは理解しやすいでしょう。なぜなら、共有物に変更が加えられると、その効果は共有者全員に及ぶからです。

例えば、共有の建物が共有者の誰かに解体されたり、共有の土地に共有者の誰かが建物を建てたりしたら、共有者の権利侵害として誰でも怒りますよね。

同じように、勝手に全体が売却された、いつのまにか抵当に入っていたなど、共有物の使用収益権・所有権に介入する(またはその可能性がある)法律行為も、共有者として見過ごすことはできないでしょう。

売却とは逆に、売却を覆すことになる売買契約の解除も、変更行為に該当するため共有者の独断で行うことはできません。共有者の持分とは、持分に応じた部分的な所有権と性質は同じですから、他の共有者の持分まで処分できないのは当然なのです。

共有物の管理

変更に該当しない利用・改良行為は、どのように共有物を使っていくかという重要な意思決定ですが、他の共有者の権利を剥奪するほどの行為ではなく、持分の過半数(共有者の過半数ではないことに注意)で可能になっています。

民法 第二百五十二条
共有物の管理に関する事項は、前条の場合を除き、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決する。ただし、保存行為は、各共有者がすることができる。
e-Gov 民法

管理行為には賃貸借契約の締結・解除も含まれると解されているため、共有不動産を賃貸で使いたいときも、持分の過半数で可能だと思うでしょうか。

ところが、管理行為に該当する賃貸借契約締結は一定条件を満たす場合だけで、多くの賃貸借契約締結は、変更行為として共有者全員の同意が必要と解されているのです(この点が少し複雑なので後述することにします)。

なお、共有者間で一度決めた共有物の使用収益方法を、後から変更する行為は「共有物の変更」にあたり、共有者全員の同意が必要とされます。

これは、過半数の持分で使用収益方法の変更まで可能になると、多数持分権者が少数持分権者による使用を排除したときに、使用収益を奪われた少数持分権者が、十分な代償を得られないおそれがあるからです。

共有物の保存

民法第252条ただし書きに規定されているように、共有物の保存行為は、各共有者の単独で行うことができます。

例としては、共有物の価値を落とさないための修繕、共有物の不法占有者に対する明渡し請求、共有不動産の不実登記に対する抹消請求などです。

保存行為に共通するのは、変更行為のように共有物の性質が変わるわけではなく、他の共有者が不測の不利益を受けるわけでもない点です。

要するに、他の共有者も反対する理由がないと推測されるほどの行為は、保存行為として単独判断でも許されるということです。

共有不動産の賃貸は管理行為か変更行為か

本題に入りますが、共有不動産の賃貸借契約締結は、管理行為(過半数持分の同意で可)に含まれると説明しました。

そして、管理行為に該当するのは一定条件を満たす場合だけで、多くの賃貸借契約締結は変更行為(全員の同意)に該当するとも説明しました。

その違いに関係してくるのは、多数持分権者による共有不動産の賃貸が、少数持分権者の権利をどのくらい侵害・制約しているのかです。

管理行為となる賃貸借契約の期間

民法第602条は、処分の権限を有しない者が行う賃貸借を短期間に限定しています。

民法 第六百二条
処分につき行為能力の制限を受けた者又は処分の権限を有しない者が賃貸借をする場合には、次の各号に掲げる賃貸借は、それぞれ当該各号に定める期間を超えることができない。

一  樹木の栽植又は伐採を目的とする山林の賃貸借 十年

二  前号に掲げる賃貸借以外の土地の賃貸借 五年

三  建物の賃貸借 三年

四  動産の賃貸借 六箇月

e-Gov 民法

この規定があるのは、多数持分権者による管理行為としての賃貸借契約が、少数持分権者の権利を制約するとしても、短期間なら影響は少ないと考えられているからです。

一方で、長期間の賃貸借契約では、共有者全員の合意が必要と解されています。その理由は、賃貸借に合意していない少数持分権者が、多数持分権者の結んだ契約に長期間拘束されてしまい、これは処分に近い状態となってしまうからです。

ポイント1:土地の賃貸借は5年、建物の賃貸借は3年までなら管理行為

借地借家法の適用と賃貸借契約の期間

建物の所有を目的とした土地の賃貸借と、一般的な建物の賃貸借には、借地借家法が適用されます。

借地借家法は借主保護の性質が強く、定期借家契約を除き、借主が解約を申し入れなければ、契約更新が続いていく(貸主からの解約が難しい)規定になっています。

これが何を意味するかというと、借地借家法の適用がある賃貸借契約は、契約期間が短くても更新が続き、長期間の契約関係になる可能性があるということです。更新で長期間になると、少数持分権者は不利益を受けかねません。

そこで判例(東京地裁平成14年11月25日判決)は、民法第602条の期間を超えない短期賃貸借においても、借地借家法の適用がある賃貸借の締結は、共有者全員の合意なくして有効に行い得ないとしました。

契約上の期間ではなく、事実上で契約関係が及ぶ期間を考慮して、少数持分権者の権利を保護する立場を取っており、概ね浸透していると思われます。

ポイント2:借地借家法が適用される賃貸借は変更行為

管理行為としても不相応ではない事情

賃貸借契約の期間ならびに借地借家法の適用で、管理行為と変更行為を一律に決めてしまうと、建物の所有を目的としない短期の土地賃貸借や、契約更新が前提にない一時使用目的の建物賃貸借を除き、共有者全員の合意を必要とする変更行為になります。

多くの賃貸借契約締結が変更行為に該当するとしたのもこの理由からなのですが、そうすると共有不動産を賃貸したい場合に困ってしまいますよね。

この点、前述の判例では「持分権の過半数によって決することが不相応とはいえない事情がある場合においては」とした上で、賃貸借契約の締結が管理行為に属する例外を認めました。

具体的な事情はケースバイケースとなりますが、少数持分権者の利益に反しないことが管理行為と認める前提です。

例えば、賃貸しか用途がない建物を賃貸することについては、その賃料が少数持分権者に分配される限り、利益に反するとは言えないでしょう。

そして、不利益がないのに反対する少数持分権者は少ないと思われますので、強引に過半数の持分で賃貸することも少ないと思ってください。

ポイント3:事情によって管理行為とみなされる場合もある

管理行為の賃貸借契約を繰り返すことは可能か?

建物所有が目的ではない(借地権が発生しない)5年以下の土地賃貸借は、管理行為として過半数の持分で賃貸借契約が可能です。また、一時使用が目的で契約更新を前提としない3年以下の建物賃貸借も管理行為です。

では、これらの賃貸借契約が満了して、借主が再契約を望んでいる場合に、過半数の持分で再契約が可能なのでしょうか?

表面上は別個の契約ですから、理論的には毎回過半数の持分で契約可能となるのですが、それを認めてしまうと、これまた実体は長期契約と変わりません。つまり、少数持分権者が排除されているのと同じです。

また、多数持分権者と借主が、少数持分権者の反対を知りながら再契約を繰り返すことができるのは、どうしても腑に落ちないでしょう。

この問題については、どのような判断がされるのか不明です。

※わかりしだい追記します。

まとめ

共有不動産の賃貸は、以下を除き共有者全員の合意が必要な変更行為です。

  • 建物を建てない借主に土地を5年以下で貸す
  • 一時使用目的の借主に建物を3年以下で貸す
  • 例外として少数持分権者の利益に反しない賃貸借

何も考えずに過半数の持分で賃貸借契約を結び、少数持分権者から訴えられないように注意してください。

本来、共有不動産をどのように活用していくのかは、共有者の総意によるべきですが、合意形成が難しいが故に、塩漬け状態となってしまうのはリスクが大きいです。

自己使用したい理由で賃貸に反対する共有者には、自己使用させた上で、他の共有者から持分割合に応じた金銭(賃料に相当する不当利得金または損害賠償金)の請求で解決することは可能です。

また、売却したい理由で賃貸に反対する共有者には、持分の買い受けや土地であれば分筆して、共有状態の解消を考えるべきでしょう。

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