離婚をすると、夫婦の共有財産を分ける財産分与が発生します。このとき、不動産が財産分与の対象に入っていると、不動産は物理的に分割できないので(土地なら分筆できますが)、名義である所有権を移転することで分与しますよね。
不動産の財産分与で起こる登記は、その原因が財産分与となるだけで、手続そのものは売買や贈与での所有権移転登記と何ら変わりません。
ただ、離婚という特別な出来事を原因としていることから、他の所有権移転登記と異なる点が存在します。
注意点1:離婚前には財産分与で登記できない
いきなり当たり前のことを書いていますが、財産分与は離婚によって発生します。
ということは、離婚前に財産分与の協議が済んでいても「財産分与を原因とした登記」はできません(夫婦間の贈与が原因ならできます)。
離婚後の財産分与と離婚前の贈与で大きく違うのは贈与税です。財産分与には原則として(財産分与として過当でなければ)贈与税が課税されないため、同じ所有権の移転を、わざわざ贈与にして贈与税を支払うのはもったいないですよね。
また、不動産取得税も財産分与の場合は減免されるケースが多く、税負担を考えると財産分与で所有権移転したほうが断然お得です。早く登記したくても離婚成立まで待つべきでしょう。
離婚の種類と離婚成立のタイミング
離婚全体の9割が、夫婦で話し合い離婚届を出す協議離婚、残りは調停や訴訟など家庭裁判所の関与する離婚(以下、裁判離婚)だと言われています。
つまり、ほとんどの離婚は協議離婚なのですが、協議離婚の場合、離婚が成立するのは「離婚届が受理」されたタイミングです。
役所に協議離婚届を出すと、記入不備・適法性の審査→受理決定(ここで離婚成立)→戸籍記載という流れになります。夜間・休日は、翌開庁日まで受領扱いとなるため、受理決定(離婚成立)は翌開庁日以降です。ただし、受理された場合は、受領日に遡って離婚を成立させる扱いになっています。
一方で、裁判離婚においては、判決・審判ならその確定時、調停・和解ならその成立時(調書作成時)に離婚が成立し、離婚届は事後報告的な意味しか持ちません。
したがって、
- 協議離婚は離婚届を出さないと財産分与請求権が発生していない
- 裁判離婚は離婚届を出す前でも財産分与請求権が発生している
ということです。
注意点2:登記を単独申請できる?できない?
所有権移転登記は、登記で利益を受ける登記権利者(財産分与される側)と、不利益を受ける登記義務者(財産分与する側)によって共同申請しなくてはなりません(不動産登記法第60条)。
これは、登記官が申請書類・添付書類のみで登記の可否を判断するしかなく(具体的な事実調査が行えず)、不利益を受ける登記義務者との共同申請であれば、虚偽の登記申請を未然に防ぐことができるからです。
しかしながら、この共同申請原則には例外があって、確定判決による場合は単独申請が可能です(不動産登記法第63条第1項)。
そして、離婚訴訟の確定判決以外では、和解(裁判上の和解に限る)、調停、審判のいずれを経ても、確定判決に準ずる効力を持っています。
家庭裁判所手続 | 確定・成立時の効力 | 根拠法令 |
---|---|---|
離婚訴訟の判決 | 確定判決そのもの | |
離婚訴訟の和解 | 確定判決と同一 | 人事訴訟法第37条による民事訴訟法第267条の準用 |
離婚調停 | 確定判決と同一 | 家事事件手続法第268条 |
離婚調停の調停に代わる審判 | 確定判決と同一 | 家事事件手続法第287条 |
財産分与請求審判 | 登記義務の履行を命じる審判は執行力のある債務名義と同一 | 家事事件手続法第75条 |
財産分与請求調停 | 確定審判と同一 | 家事事件手続法第268条 |
財産分与請求調停の調停に代わる審判 | 確定審判と同一 | 家事事件手続法第287条 |
よって、協議離婚後に登記を単独申請するには、離婚後に財産分与請求調停の成立(または調停に代わる審判の確定)を経なくてはなりません。
ちなみに、協議離婚では財産分与条項を含む離婚協議書等を作ることもありますが、私文書である離婚協議書等はもちろんのこと、離婚協議書等を公正証書にしても所有権移転登記は単独申請できないことに注意してください。
それに対して、裁判離婚または離婚後の財産分与請求調停・審判では、家庭裁判所が財産分与について文書を作成しているはずなので、その記載に不備さえなければ登記を単独申請できます。
では、登記を単独申請できる記載とはどのようなものなのでしょうか?
単独申請の条件は登記手続に関する記載
登記を単独申請するためには、家庭裁判所が作成した文書に次の記載がなくてはなりません。これを登記条項や登記手続条項と言いますが、ポイントは4つあって定型化していると思って大丈夫です。
- 誰が誰に
- どの不動産を
- 財産分与を原因として
- 所有権移転登記手続すること
※本来であれば、登記の原因日付となる日付も入って欲しいところですが、なぜか日付の入っていない文書もあり、その場合は効力発生日(判決・審判なら確定日、調停・和解なら成立日)を原因日付として登記できるように法務局が配慮しているようです。
具体的な文言は、どの家庭裁判所手続を経由したかによって少し異なるため、例示すると以下のようになります。
判決書 | 被告は、原告に対し、 | 別紙目録記載の不動産につき、財産分与を原因とする所有権移転登記手続を | せよ。 |
和解調書 | 被告は、原告に対し、 | する。 | |
審判書 | 相手方は、申立人に対し、 | せよ。 | |
調停調書 | 相手方は、申立人に対し、 | する。 |
これが、財産分与を原因としていない、登記義務があることの確認しかなく手続の記載がない、対象不動産が不明瞭など、きちんと書かれていないと単独での登記申請が通りません。
注意点3:協議離婚は登記申請がスムーズにできない可能性
家庭裁判所を経由しない協議離婚では、財産分与も協議によって決めます。ところが、離婚するからには何らかの原因があり、離婚前から夫婦関係は悪化しているのが普通です。
離婚後は相手の所在すらわからない、連絡も取りたくないという人は少なくないのではないでしょうか?
共同申請といっても、法務局に二人で行かなくてはならないわけではなく、司法書士へ依頼することも可能なのですが、共同申請である以上、登記申請に必要な書類を揃えるのに双方の協力が必要です。
しかし、連絡先を知らない場合はもちろん、連絡を取れたとしても登記に協力してくれない、協力を得られてもすぐに必要書類を用意してくれないなど、必ずしも協議離婚後の登記はスムーズに進むとは限りません。
できるだけ登記の必要書類は離婚前に準備しておき、離婚届が受理されたら速やかに所有権移転登記を申請すべきでしょう。
注意点4:財産分与する側の住所または氏の不一致
財産分与する側(登記名義人)の現住所が、登記簿上の住所と異なることは良くあって(特にマイホームの財産分与)、その際は所有権移転登記の前に住所変更登記を必要とします。
協議離婚の場合、財産分与する側が登記簿上の住所から現住所までの繋がりを証明するため、住民票(除票)や戸籍の附票(除附票)の写し等を集めなくてはなりません。
しかしながら、所有権移転登記が共同申請なので、いずれにせよ財産分与する側の協力は不可欠となり、住所変更登記だけできないという事態は起こりにくいと思われます。
一方、裁判離婚や財産分与請求調停・審判の場合は、財産分与する側がすべき住所変更登記を、財産分与される側が代位して申請できます。つまり、住所変更登記も所有権移転登記も単独で可能ということです。
家庭裁判所が作成した文書に、財産分与する側の現住所と登記簿上の住所が併記されることもあります。その場合でも、住所変更登記は省略できません。
財産分与する側の住民票の写しなどについては、第三者による交付申請となりますが、財産分与される側の権利は家庭裁判所の文書で明らかですし、かつ法務局への提出であることを鑑みれば、交付は認められるはずです(司法書士は職務上の請求で取得可能)。
なお、財産分与する側の氏が離婚で変わっている場合も、所有権移転登記の前に氏名変更登記が必要です。
注意点5:住宅ローンが残っている場合
夫婦のマイホームを財産分与するケースでは、まだ住宅ローンが残っていることも多く、住宅ローンが残っていると債権者である金融機関や保証会社が抵当権を設定しています。
抵当権が設定されていても所有権移転登記は可能ですが、多くの住宅ローン契約では、融資の対象かつ担保である住宅について、債権者の承諾なしに権利設定や譲渡を許していません。
したがって、所有権移転登記をする前に債権者の承諾を得なければ契約違反となり、もし発覚すると最悪の場合は一括返済を求められます。
そこで、債権者に相談するとしても、承諾を得るのは難しいでしょう。
住宅ローンという金融商品には、
- 契約者が所有する住宅であること
- 契約者が居住する住宅であること(やむを得ない事情を除く)
という前提があり、住宅ローンの契約者=財産分与する側、住宅の所有者かつ居住者=財産分与される側となる所有権移転登記は、住宅ローンの融資対象から外れてしまいます。
金融機関の立場にしてみれば、契約者が自分の持ち家でもなく住んでもいないのに、残りの住宅ローンを完済するかどうか疑わしいので、承諾しがたいのもわかりますよね。
ですから、住宅ローンの名義を財産分与される側に変更するか、借り換えて全額返済してから、心おきなく所有権移転登記をしたいところですが、財産分与される側の収入等が関係するため、こちらも難しいのが現実です。
財産分与による所有権移転登記の必要書類
既に説明のとおり、家庭裁判所を経由しているかどうかで、登記が共同申請なのか単独申請なのか異なり、必要とする書類も変わります。登記申請書については、法務局に記載例が掲載されているので、それを参考にするのが一番確実でしょう。
協議離婚で財産分与請求調停・審判を経ていない場合
共同申請となりますので、双方協力の上、または個別に以下を用意します。
財産分与に関する協議書等
登記原因証明情報となる書類で、所有権移転登記の対象不動産について、財産分与したことを証明する離婚協議書・財産分与協議書などです。
対象不動産は一般的に使う住所ではなく、登記記録に合わせて以下のように記載します。
【土地】所在、地番、地目、地積
【建物】所在、家屋番号、種類、構造、床面積
これらの情報を手っ取り早く確認できるのは、固定資産税・都市計画税の課税明細書です(登記事項証明書でも当然に確認できますがその交付申請に地番や家屋番号が必要)。
また、離婚協議書・財産分与協議書などがなければ、登記原因証明情報を作成することになりますので、法務局の記載例を参考にしてください。
ちなみに、離婚協議書・財産分与協議書などがあっても、登記原因証明情報を別途作成して構いません。例えば、財産分与以外の取り決めを含む離婚協議書は、あまり他人に見られたくないので、新たに登記原因証明情報を作ることが考えられます。
離婚の記載がある戸籍謄本等
離婚が事実であること並びに離婚日の証明として使います。離婚後は別戸籍ですが、どちらの戸籍にも離婚日や配偶者氏名は記載されていますので、どちらが取得しても大丈夫です。
※離婚届を出した直後では戸籍への記載が間に合わない(本籍地以外に離婚届を出すとさらに遅くなる)ため、その場合は戸籍謄本ではなく離婚届を出した役所で離婚届受理証明書を交付してもらいましょう。
なお、財産分与の協議が離婚前にされていても、登記の原因日付(登記申請書の原因に書く日付)は離婚日となり、離婚後に財産分与の協議がされた場合は、原因日付がその協議した日となります。
財産分与する側:登記識別情報または登記済証
法務局のオンライン化により、これまでの登記済証は登記識別情報(12桁の英数字)の通知に切り替わっています。
登記申請で登記識別情報を添付するときは、登記識別情報が記載された書面を、封筒に入れて封をしなければなりません(不動産登記規則第66条)。
この場合の「登記識別情報が記載された書面」とは、登記識別情報12桁のメモ書きでも登記識別情報通知書のコピーでも大丈夫です(登記識別情報通知書の原本提出はおススメしません)。
封筒には必ず以下を記入してください。
- 登記識別情報在中
- 申請人氏名 財産分与する側の氏名
- 登記の目的 所有権移転
なお、登記済証を添付するときは原本提出です(登記完了後に返却されます)。
財産分与する側:印鑑登録証明書と実印
交付から3か月以内の印鑑登録証明書と、その登録印(いわゆる実印)を用意します。
印鑑登録は、市区町村外へ引っ越した際、転出届によって廃止されてしまうため、転入した現在の市区町村で未登録なら新規登録しましょう(市区町村内の引っ越しなら登録は消えません)。
財産分与する側:固定資産評価証明書
固定資産評価証明書は、登録免許税の計算に使うもので、対象不動産のある市区町村に交付申請します。不動産の所有者本人なら問題なく交付申請できるはずです。
毎年4月1日に切り替わる「年度単位」の性質から、登記申請日の年度に該当する固定資産評価証明書を用意しなくてはなりません。
交付申請の際には、地番・家屋番号を記入するので予め調べておきましょう。
財産分与される側:住民票の写しと認印
登記権利者の財産分与される側が用意するものは少なく、現住所の住民票の写しと認印だけですから難しくありません。
気を付けたいのは、マイナンバー(個人番号)が記載されていない住民票の写しを提出することです。通常、住民票の写しを交付申請する際、あえて申請しなければマイナンバーは記載されないので大丈夫でしょう。
※登記申請書に住所と住民票コードを併記すると、住民票の写しの提出を省略できます。
※財産分与される側がDV被害者で、住所を隠したい場合には特例があります。
裁判離婚または財産分与請求調停・審判を経ている場合
登記を単独申請できますので、財産分与される側が以下を用意します。
財産分与に関する家庭裁判所作成の文書
家庭裁判所作成の文書が、そのまま登記原因証明情報になります。
- 判決:判決書+確定証明書
- 和解:和解調書
- 審判:審判書+確定証明書
- 調停:調停調書
これらの文書(確定証明書を除く)は、正本でなければならないので「これは正本である」という記載を確認してください。なければ、家庭裁判所に交付申請して手に入れます。
また、これらの文書において、例えば、金銭給付と引き換えに所有権移転登記手続が定められている場合(反対給付といいます)、執行文を付与してもらわなくてはなりません。
その際、反対給付があったことの証明(金銭給付なら領収書など)を提出します。
固定資産評価証明書
登録免許税を計算するため、登記申請日の年度に該当する固定資産評価証明書が必要です。
財産分与される側は、登記後の所有者であって現所有者ではなく第三者による交付申請となりますが、裁判所が登記を認めた文書を持っているのですから、入手できないことはないはずです(司法書士は職務上の請求で取得可能)。
交付申請の際には、地番・家屋番号を記入するので予め調べておきましょう。
住民票の写しと認印
マイナンバー(個人番号)が記載されていない住民票の写し、認印を用意します。
※登記申請書に住所と住民票コードを併記すると、住民票の写しの提出を省略できます。
※財産分与される側がDV被害者で、住所を隠したい場合には特例があります。