民泊の今後~違法から合法に変わっていく民泊の法整備

最近はテレビでも盛んに取り上げられているので、空き家・空き部屋を他人に貸して利益を得る民泊に興味を持っている人も多いはずです。

ところが、営利目的で継続性のある民泊は、ほとんどが旅館業法違反なので摘発の対象になります。これは既に民泊で稼いでいる人も、これから始める人も同じです。

では、法律に触れず合法的に民泊を行うにはどうすれば良いのでしょうか?

民泊が広がり始めた数年前と比べて、現在は規制緩和が行われたり、新たな法制度の枠組みが決まったりと、民泊を取り巻く環境は激しく変化しています。

民泊に対するこれまでの動きと共に、民泊の今後を考えてみます。

この記事は、住宅宿泊事業法(民泊新法)の成立前に執筆しており、現行の法律とは異なります。

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宿泊施設の不足と政策的な民泊活用

全国では無数に空き家・空き部屋がある一方で、政策目標でもある外国人観光客の増加は止まらず、ホテル・旅館業界は部屋不足で嬉しい悲鳴を上げています。

さらには、東京オリンピックが控えていることを踏まえれば、現在または近い将来における宿泊施設のニーズが相当高いのは明らかですよね。

ホテルや旅館を持つのは無理でも、自宅の一室、空き家、賃貸物件などを利用して、個人を相手に小規模な民泊を始めようと考えても全く不思議ではありません。

Airbnbをはじめとする民泊仲介サイトの存在は大きく、誰でも簡単に民泊を行い利益を得られるようになりました。しかし、個人間で行われる民泊の普及は、法律が想定していない新しいサービス形態だったのです。

民泊を受け入れるしかない状況に

民泊にはホームステイ型で異文化交流という別の側面があるにせよ、ほとんどの民泊施設提供者は、営利を目的としているのが現実です。

営利を目的とした行為には、どの業界でもそれなりの法規制を遵守しなければならず、個人が自由な営業を許されるものではありません。普通なら民泊も規制をかけていく流れになるはずでしたが少し違いました。

その理由は、絶対的な宿泊施設不足の解消だけではなく、増えすぎた空き家の有効活用という国策レベルの課題を、同時に解決できる優れたサービスだったからです。

空き家問題は拡大が必至~他人ごとでは済まされない時代に
全国の世帯数と住宅戸数が同じであれば、どこにも引っ越すことができなくなるため、住宅ストックとしての空き家は不可欠なのですが、現在はその数が問題視されています。 住む場所を失い、路上で生活する人がいる一方で、誰も住んでいない空き家は何百万戸も...

また、あまりにも実態が先行しすぎて行政が把握できず、極めて違法性が高い状態でありながら摘発が難しかったのも確かで、いわゆるグレーゾーンと認知されたまま民泊は全国に拡大し、手がつけられない状態でした。

そこで、民泊のニーズを生かす方向で、なおかつ合法的に民泊を行うことができる制度設計が求められ、民泊は結果的に受け入れられる方向へと舵を切ります。

具体的には、民泊に法的根拠を与えることで、制度に従った民泊は合法、制度に従わない民泊は違法と線引きを行い、行政が把握できる状況を目指しています。

課題は旅館業界と不動産業界の対立

ホテルや旅館では、厳しい法規制を守るため大量の資金が投じされているのであって、自宅の一室を使い、低コストで宿泊料を得られるビジネスが合法的に成り立ってしまうと、何のために正規の旅館業をしているのか意味がわからなくなります。

民泊を合法化していくにあたり、旅館業界の反発があるのは当然で、民泊を許すなら同時に旅館業への規制も大きく緩和しなくては不公平でしょう。

その一方で、民泊を推進したいのが不動産業界です。民泊が盛り上がるほど物件の需要は増えるので、民泊の規制が緩くなれば不動産の流通が活発になります。

旅館業界はできるだけ厳しく、不動産業界はできるだけ緩くですから、両業界の主張に距離が生まれるのも無理はありません。

一見すると、単なる業界間の対立のように思えても、内情はそれぞれの業界から支援(献金)を受けている議員の力関係にも影響してしまい、「あちらを立てればこちらが立たず」の状況を、政治的配慮で解決していく流れになると思われます。

民泊の法的な位置付け

一言で民泊といっても、親戚・知人などを家に泊めるのも民泊といえば民泊ですし、Airbnbなどに登録して世界中の人を対象にした有償の民泊まであります。

民泊が違法と扱われる基準は次の3点です。

  • 有償である
  • 繰り返している(事業性がある)
  • 民泊が可能な法制度を守っていない

まず、有償であるかどうかの判断は、金銭の支払いにおける名目を問いません。宿泊料、謝礼、体験料、利用料など、どのような名目であろうと、人を宿泊させた対価として金銭を受けとると有償の民泊になります。

次に、繰り返しているかどうかですが、有償での民泊を繰り返すと人を宿泊させる「営業」とみなされます。どのくらいの頻度であれば営業に該当するという明確な基準はなく、有償の民泊が常態化しているかどうかで判断されます。

最後の民泊が可能な法制度とは、後述する国家戦略特別区域で特定認定を受けた民泊と、簡易宿所の許可を得た民泊です。ほとんどの民泊では、Airbnbなどへの登録だけで行われており法制度を守っていません。

これらから、次のような民泊は現行法制においても合法です。

  • 無償である
  • 有償で繰り返されていない
  • 有償で繰り返されているが法制度を守っている

無償は説明の必要もなく、有償で繰り返されていない民泊とは、例えば一時的な人の流動に対応するための民泊です。典型例では、国民体育大会(国体)や大きなイベントの際に、宿泊施設不足の解消を目的として行われる民泊となります。

民泊はグレーゾーンだとする認識は誤り

合法をシロ、違法をクロとしたときに、合法とも違法とも判断が付かない状態をグレーゾーンと呼ぶことがあります。民泊が認知されていくにつれ、違法性を懸念して諦める人もいれば、グレーゾーンだから今のうちに…と始める人もいました。

さて、民泊がグレーゾーンかどうかというと、グレーゾーンの民泊など最初からありません。既に説明のとおり、有償で繰り返し行われ、法制度を守っていない民泊はクロ、有償でも繰り返さず行われている民泊はシロという区分けしかないのです。

では、グレーゾーンがどこから出てきたかといえば、法律上で違法(クロ)なのは明確でも、有償で繰り返されている違法性の確認が難しく、ほとんど摘発されないのでグレーゾーンだと言っているだけの話です。

決して法律上の線引きが曖昧だからグレーゾーンなのではありません。

ここをはっきり理解しておかないと、グレーゾーンだから今は大丈夫と考えたり、クロに限りなく近いグレーなどという意味不明な考えに至ったりします。

グレーゾーンと呼ばれる民泊は、有償で繰り返されている実態を把握されたら「完全にクロ」だということを覚えておきましょう。東京や大阪などでは、既に民泊で摘発された例が出ています。

宿泊で営業できるのは旅館業だけ

民泊を違法とする法的根拠は旅館業法にあり、人を宿泊させる営業をする場合は、旅館業の許可を得なくてはなりません。キーワードは営業で、営業とはまさに有償で繰り返されることを意味します。

旅館業を営むためには、設備面や衛生面などの関連法規を遵守する必要もあるのですが、それ以前に有償で民泊を繰り返している人は旅館業の許可を得ていませんよね。ですから、民泊は旅館業法違反(無許可の旅館業経営)で摘発されます。

ただし、無許可の旅館業経営は、6か月以下の懲役または3万円以下の罰金ですから、罰則の軽さも違法な民泊を広げた要因になっていると批判されています。

合法な民泊を行うための法制度

ここから合法な民泊の説明をしていきますが、2016年7月現在で、合法な民泊を可能にする方法は以下の2つしかありません。

  • 国家戦略特別区域での特定認定事業
  • 旅館業の許可を受けた簡易宿所営業

これらに加え、近い将来に「民泊新法」と呼ばれる法制度で、住宅を使った民泊ができるようになる方向で検討が進んでいます。

国家戦略特別区域での特定認定事業

国家戦略特別区域(以下、特区とします)では、都道府県知事(保健所を設置する市は市長、特別区は区長)から外国人滞在施設経営事業の認定(特定認定)を受けると、旅館業の許可を不要とする特例があります(国家戦略特別区域法第13条)。

外国人滞在施設経営事業と書いてしまえば難しそうですが、要するに民泊です。外国人だけではなく日本人も滞在施設利用者に含まれます。

特区民泊は、区域計画に外国人滞在施設経営事業が定められた東京圏や関西圏が中心で、東京都大田区と、大阪府・大阪市が特区民泊では先行しています。

ただし、特区民泊は要件が民泊のニーズと合っておらず、6泊7日以上を義務付けたり、床面積が25㎡以上となっていたりと、事業者からも宿泊者からも利用しにくい制度であるため、特区民泊を行っている事業者はほとんどいません。

旅館業の許可を受けた簡易宿所営業

旅館業で知られているのはホテルや旅館ですが、多数人で宿泊する場所を共用する簡易宿所という営業形態があります。山小屋、スポーツ合宿所、ユースホステル、カプセルホテル、小規模な民宿、農林漁家体験民宿などが簡易宿所です。

簡易宿所でも民泊が営業できるように旅館業法施行令が改正され、平成28年4月1日から簡易宿所の延床面積要件が緩和されました。

これまで延床面積で33㎡以上を必要としていたのが、宿泊人数が10名未満の場合は、宿泊人数×3.3㎡の広さがあれば簡易宿所の許可を受けられるようになったのです。

旅館業法施行令 第一条第三項第一号

一  客室の延床面積は、三十三平方メートル(法第三条第一項の許可の申請に当たつて宿泊者の数を十人未満とする場合には、三・三平方メートルに当該宿泊者の数を乗じて得た面積)以上であること。

e-Gov 旅館業法施行令

旅館業法施行令の改正で、ワンルームマンションなどの狭い部屋でも民泊ができる!と思った人が多いかもしれません。

ところが、延床面積が緩和されただけで、簡単に簡易宿所ができると思ったら大間違いです。簡易宿所とはいえ旅館業なので、用途地域の用途制限から住居専用地域には設置できず、比較的商業地から近いエリアに限定されます。

用途地域と用途制限

用途地域とは、一定地域の土地をある程度同じ用途にする目的で定められています。用途制限とは、用途地域における具体的な建築制限のことです。

用途制限により、特定の建物は特定の地域にしか設置できなくなります。例えば、住宅地に工場は建てられず、風俗店舗は商業地に限られ、学校は工業地に建てられないわけです。

簡易宿所は、それまでがどのような用途であっても、ホテル・旅館と同じ用途に変わるわけですから、用途制限によりホテル・旅館が建築できる地域に限られます。

ただし、用途制限にも例外はあるので、自治体条例で用途制限を緩和していれば、必ずしも住居専用地域に簡易宿所が営業できないとは限りません。

※用途地域や用途制限については別記事を用意します。

しかも、自治体条例で定められた細かい構造基準、消防設備の要件を満たしても、法令では規制されていない玄関帳場(フロント)の設置を、自治体条例で義務付ける地域があるなど、簡易宿所の開業は素人が思うほど容易ではありません。

期待されている民泊新法

特区民泊や簡易宿所での民泊は、一般人が手軽に住宅を使って民泊経営を可能にする制度ではなく、可能になるのはごく一部に限られます。

こうなると、政府は本気で民泊を活用していく気があるのか?と疑問を持つくらいハードルは高いのですが、住宅地で住宅を使った民泊ができるように、旅館業法とは異なる新しい法制度が検討され、民泊新法と呼ばれています。

民泊新法は大筋の枠組みが既に決まり、次のようになっています。

民泊を届出制にする

行政が民泊の実態を把握できるように、届出制にして管理します。ただし、届出はインターネット上で行うことを基本としており、手間を軽減する配慮はされます。

年間提供日数は180日以内

年間を通じて民泊を行っているのであれば、それは実質的に旅館業と変わりないわけで、民泊新法では、あくまでも「住宅」を二次利用した民泊を想定しています。

そのため、年間提供日数に上限を設け、180日以内で適切な日数と決まっています。

ただし、上限を何日にするのかは決まっていません。その理由は、前述した旅館業界と不動産業界の対立にあり、適切な日数の設定が困難だからです。

年間提供日数の上限は、民泊ビジネスに非常に大きな影響を与えますから、何日になるか今後も注目されるところです。

管理業務を義務付ける

利用者名簿の作成・保存、衛生管理、外部不経済への対応(利用者への注意事項説明、民泊を行っている表示、苦情対応など)といった、管理業務が義務付けられます。

この義務は、自宅の空き部屋を使うような家主が同泊する民泊では家主が負い、空き家を使うような家主不在の民泊では、民泊施設管理者と呼ばれる管理者が負います。

家主が民泊施設管理者となることもできるとはいえ、遠隔地や複数物件になると、民泊施設管理者を業務委託する形態になるでしょう。

物件が民泊で使えることの確認義務

分譲マンションでは、管理規約により所有者以外の使用を禁じていたり、マンションに限らず賃貸物件では、転貸に該当する行為を禁じているケースがあるので、これらのルールに違反していないことを確認する義務があります。

行政当局への協力義務

民泊が野放しになっている現状では、衛生面(疫病を含む)、治安面、脱税行為などが懸念されます。行政当局への情報提供を義務化することで、透明性のある民泊にしていきたい意図が感じられます。

届出制や管理業務など、民泊新法の制定によって、現在よりも手間が増えるのは否めません。それでも現在は違法なのですから、法令を遵守して合法的に民泊を行うために、ある程度の規制はやむを得ないところです。

なお、民泊新法は、住宅専用地域での民泊を可能にするために検討されていますが、中には民泊をされては困ると考える地域もあるでしょう。そのような場合は、条例を定めることでローカルに民泊を禁止することもできます。

まとめ

民泊の高収益性は魅力的なので、空き家・空き部屋を使った民泊だけではなく、物件を借り上げ民泊で収益を上げる民泊ビジネスが盛んです。

しかしながら、法制度が少しずつ固まり、数は少ないながらも民泊が摘発されるようになってきたことは、民泊ビジネスが転換期を迎えていることを意味します。

特に、民泊新法制定後は届出によって合法・違法の区別がはっきりするのですから、今までのように自由な民泊はできなくなると思って間違いありません。

捕まらなければ…そのように民泊を考えているのなら、民泊新法を待ち、きちんと届け出た上で合法的に行ったほうが精神的にも良いのではないでしょうか。

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