土地や家を手に入れると、忘れたころにやってくる不動産取得税の通知。恐る恐る開けてみたら、とんでもない金額が!
こういう話は良く聞きます。そう、不動産取得税は高いのです。まともに支払ったら、給料1か月分では全く足りないケースも出てきます。
しかし、慌てないようにしましょう。不動産取得税には軽減措置があって、大幅に減額されるか納付しなくて済むケースがたくさんあります。
軽減には都道府県税事務所へ申告を必要としますが、軽減できる不動産には条件があるので、自分の土地や家が軽減できないか確認することから始まります。
不動産取得税のおさらい
不動産取得税とは、相続など一部の取得原因を除き、原則的に不動産を取得した事実で課税される税金(都道府県税)です。不動産の取得について有償・無償を問いません。
不動産取得税の税額は、次のように計算されます。
税額=課税標準額×税率-減額措置による軽減額
※課税標準額は不動産の価格に特例を適用した価額
不動産の価格とは、固定資産評価基準により評価された価格であって、購入・建築代金ではないことに注意してください(以下同様)。
次に、不動産取得税の税率は次のとおりです。
※本則は税率4%(地方税法第73条の15) | 土地 | 家屋(住宅) | 家屋(住宅以外) |
平成20年4月1日〜令和6年3月31日 | 3% | 3% | 4% |
不動産取得税で厄介なのは、軽減されずに、または一部の軽減だけされて納税通知書が届くことです。だからこそ納税通知書を見てびっくりしてしまうのです。
律儀にも納税通知書の納税額を信じて、そのまま支払ってしまう人が後を絶ちません。ただでさえ支払いたくない税金なのに、よりによって多く支払うとは……。
何としてでも軽減措置を受けて、無駄に税金を支払わないようにしましょう。
不動産取得税の基本的な部分や、どのような取得原因なら非課税になるかは、以下で解説しているので併せてご覧ください。
新築住宅の軽減措置(増築・改築含む)
住宅の建築(新築・増築・改築)と、未使用の新築住宅購入(建売・分譲など)においては、不動産の価格から1,200万円(令和6年3月31日までに取得した認定長期優良住宅は1,300万円)を控除する特例があります。
課税標準額=不動産の価格-1,200万円
この特例を受けるには、次の床面積を満たさなくてはなりません。
居住用 | 貸家 | |
---|---|---|
戸建 | 50㎡~240㎡ | 50㎡~240㎡ |
アパート・マンション | 50㎡~240㎡ | 40㎡~240㎡ |
アパート・マンションでは、床面積が1戸ごとに判定されるので、1棟を取得した場合は、床面積要件を満たす戸数×1,200万円を控除できます。
サービス付き高齢者向け住宅の場合
サービス付き高齢者向け住宅(貸家)では、次の要件を満たす1戸につき、不動産の価格から1,200万円の控除を受けられます。
- 令和5年3月31日までに新築で取得
- 1戸当たり床面積が30㎡~180㎡
- 戸数が10戸以上
- 主要構造部が耐火構造または準耐火構造
- 国の補助金を受けて建築
- 貸家であること
中古住宅の軽減措置
中古住宅にも特例による控除はありますが、耐震基準適合住宅と耐震基準不適合住宅で適用要件が異なります。
耐震基準適合住宅の場合
- 個人が自己の居住用に取得
- 床面積が50㎡~240㎡
- 昭和57年1月1日以降に新築
新築日の要件がありますが、昭和56年までに新築された中古住宅でも適用を受けるためには、耐震基準を満たしている証明が必要となります。その場合は、耐震調査が取得日の前2年以内に終了していなければなりません。
耐震基準不適合住宅の場合
耐震基準適合住宅として、特例が適用できない住宅でも、次の要件を満たせば、耐震基準適合住宅と同じ特例を適用することができます。
- 平成26年4月1日以降に取得
- 床面積が50㎡~240㎡
- 昭和56年12月31日以前に新築
- 取得から6か月以内に耐震改修を行った
- 耐震改修で耐震基準に適合する証明を受けた
- 耐震改修後に個人が自己の居住用で使用
不動産の価格から控除される額
中古住宅の特例控除は、その住宅が新築された時期によって異なります。
課税標準額=不動産の価格-新築日による控除額
新築日による控除額は次のとおりです。
新築日 | 控除額 |
---|---|
平成9年4月1日~ | 1,200万円 |
平成元年4月1日~平成9年3月31日 | 1,000万円 |
昭和60年7月1日~平成元年3月31日 | 450万円 |
昭和56年7月1日~昭和60年6月30日 | 420万円 |
昭和51年1月1日~昭和56年6月30日 | 350万円 |
土地の軽減措置
土地の軽減措置は、課税標準の特例と税額から一定額を減額する減額措置の2つです。課税標準の特例は簡単なので先に説明します。
課税標準額=不動産の価格×1/2
この特例は、令和6年3月31日までに取得した宅地と宅地比準土地(類似する他の宅地の価格に比準して評価される土地)に適用されます。
住宅用土地の減額
土地の取得が、特例適用住宅の敷地を目的としている場合、土地の取得に前後して住宅の取得があると、土地の不動産取得税が減額されます。
軽減額=1㎡当たりの価格×住宅延床面積の2倍×税率
※令和6年3月31日までの取得した宅地・宅地比準土地は特例で1㎡当たりの価格が1/2
※住宅延床面積は1戸200㎡が上限
※共有名義では持分割合に応じた軽減額
※軽減額が45,000円よりも小さければ45,000円
軽減額が税額を上回る、つまりマイナスになるときは、税額が0円になります。
税額が0円か判定するには
減額措置の計算式をもう少し分解して考えると、税額が0円になるかどうかを簡易に判定できるようになります。まず、最低でも45,000円は減額されるので、税率が3%の場合、住宅延床面積に関係なく、
土地の価格×3%-45,000円≦0
土地の価格≦1,500,000円
よって、土地の価格が150万円(特例適用なら300万円)以下で、納税額は0円です。次に、減額前の税額と減額後の税額を比べると、
減額前:土地の価格×税率
減額後:土地の価格×税率-1㎡当たりの価格(特例後)×住宅延床面積の2倍×税率
となり、減額後には「土地の価格×税率」と「1㎡当たりの価格×住宅延床面積の2倍×税率」の両方に税率があるので外してしまいます。
続いて、減額後の税額が0円になるのですから、
土地の価格-1㎡当たりの価格×住宅延床面積の2倍≦0
土地の価格≦1㎡当たりの価格×住宅延床面積の2倍
となれば、税額は0円だとわかります。さらに、土地の価格とは、1㎡当たりの価格×土地の面積(地積)と同じなので、
1㎡当たりの価格×土地の面積≦1㎡当たりの価格×住宅延床面積の2倍
土地の面積≦住宅延床面積の2倍
よって、住宅延床面積の2倍(1戸上限200㎡)より土地が小さいと納税額は0円です。
住宅用土地の減額を受けられるパターン
減額措置の適用が、土地の取得に前後した住宅の取得であるため、土地の先行取得・住宅の先行取得によって、いくつかのパターンに分かれます。
A.土地の取得後に特例適用住宅の新築
「土地を取得して2年(令和6年3月31日までは3年)以内」に、特例適用になる住宅(新築住宅の軽減措置を参照)が新築されると軽減を受けられます。
この場合、次のいずれかにあてはまるケースが対象です。
- 新築されるまで土地を所有していた
- 土地を手放した相手が新築した
新築されるまで土地を所有していた場合は、自分で新築した場合はもちろん、他の人が新築しても大丈夫です。自分名義で土地を取得して子が新築した、借地にして借地人が新築したなど考えられます。
B.特例適用住宅の新築後に土地を取得
特例適用住宅の新築が先でも、「新築後1年以内」に土地を取得していれば、軽減を受けることができます。
C.新築未使用の特例適用住宅と土地を取得
新築未使用の特例適用住宅(建売・分譲など)を、土地と前後して(同時取得を含む)取得すると、軽減を受けることができます。
この場合、次のいずれかにあてはまるケースが対象です。
- 「新築後1年以内」に土地と住宅を取得した
- 自己居住の目的で「土地の取得前後1年以内」に住宅を取得した
自己居住の目的であれば、要件が土地の取得前後1年以内となることから、新築後1年以内は当然含まれるほか、未使用で新築後1年を超えた特例適用住宅でも軽減の対象になります。一方で、自己居住以外の目的では、新築後1年以内に限定されます。
D.土地の取得前後に自己居住用の中古住宅を取得
「土地の取得前後1年以内」に、自己居住の目的で中古住宅を取得した場合でも軽減を受けることはできます。
軽減措置に関する注意点
ここでは、不動産取得税が軽減できるはずだと思っていたのに軽減できない、軽減できないと思っていたら軽減できたなど、うっかりしやすい注意点を説明します。
住宅の床面積について
住宅の軽減措置は、全て床面積が要件に入っており、共同住宅では、専有部分の面積に共用部分を専有部分の面積比で按分した面積を加えた、合計面積で判定されます。
ということは、共用部分が充実して面積が大きいほど、加えられる按分面積が大きくなり、予期せずに床面積要件の上限を超えてしまう場合があります。
下限を下回ることは無いように思うが…
逆に、床面積要件の下限以上の広さを持つ物件なら安心でしょうか?
ところが、マンションで良くあるのが、パンフレットなどに記載の専有部分面積よりも、実際の専有部分面積が小さい物件です。極端に共用部分の面積が小さいと、合計した面積は、床面積要件の下限に満たない場合も考えられます。
これは、「壁芯面積」と「内法面積」という面積の測り方が原因で、壁の中心から測る壁芯面積のほうが、壁の内側で測る内法面積よりも広いからです。
パンフレットなどは壁心面積が多く、登記簿上の面積は内法面積であることから、内法面積+共用部分の按分面積が下限を超えないと軽減を受けられません。
住宅が軽減を受けられないと、住宅用土地の減額措置も受けられないのでダブルの痛手です。とにかく床面積には気を付けましょう。
附属家屋の取扱い
こちらも床面積の話ですが、戸建住宅に関係してきます。
不動産取得税は、主となる家屋に附属する家屋(車庫や物置など)も、ひと構えの家屋として一体に扱います。そして、家屋の取得から1年以内に附属家屋の取得があったときは、全体で床面積判定が行われます。
このような判定が影響するのは、軽減を受けられる床面積の戸建住宅を取得した後、附属家屋を新築することで床面積要件の上限を上回ってしまう場合です。
軽減済みのケースでは追徴も
例えば、延床面積230㎡の家を新築して、土地と家の両方で軽減措置を受けたとします。その後1年以内に床面積20㎡の物置を新築すると、全体としての床面積合計が250㎡になって、軽減措置の適用を外れてしまいます。
新築された物置だけではなく、全体が軽減措置から外れることに注意してください。物置を新築する前に、家の新築で軽減措置を受けて納付しなかった税額は、軽減が不適用に変わることで追徴されます。
宅地比準土地は評価誤りがあるかも?
納税者にとっては信じられないかもしれませんが、登記上の地目で判定しやすい宅地と違い、宅地比準土地では、価格の1/2を課税標準額とする特例を適用せずに、不動産取得税が請求されることがあります。
宅地比準土地は、登記上の地目が宅地ではなく、現況が宅地と同様であるに過ぎないため、固定資産税を課税する市町村がその実態を把握しています。
つまり、登記記録や登記申請の添付書類(固定資産評価証明書など)から現況が不明な場合には、都道府県税事務所から市町村に照会して、宅地比準土地の判定をしなければ公正な課税とならないわけです。
ところが、この市町村への照会を怠り、都道府県税事務所の独断で宅地比準土地ではないと判定された土地は、課税標準の特例が適用されず納税額が倍になります。
宅地比準土地は固定資産税が高い
市町村税の固定資産税は、現況に従って課税されるので、宅地に比準して評価される宅地比準土地は、宅地並みに評価額が高くなって固定資産税も高くなります。ただし、不動産取得税が特例で安くなるのは説明のとおりです。
一方、宅地比準で評価されないほうが、固定資産税は安いのですが、不動産取得税は特例が適用されず高くなります。
問題となるのは、市町村が宅地比準土地としているのに、都道府県税事務所が宅地比準土地ではないと判定した場合です。
都道府県:宅地比準土地 | 都道府県:宅地比準土地以外 | |
市町村:宅地比準土地 | 固定資産税:高い 不動産取得税:安い | 固定資産税:高い 不動産取得税:高い(誤り) |
市町村:宅地比準土地以外 | 固定資産税:安い 不動産取得税:安い(誤り) | 固定資産税:安い 不動産取得税:高い |
税金が高くなるほうに誤っているので、これは是正してもらわなくてはなりません。宅地並みに固定資産税が課税されているのに、不動産取得税は軽減されずに請求が来たら、必ず宅地比準土地として軽減してもらうようにしましょう。
不動産取得税の計算事例
いくらでも事例は考えられますが、比較的多い事例として、土地を先行取得してから3年以内に、特例適用の住宅を新築した場合で計算してみます。
【土地】
地積:150㎡
評価額:3,000万円
【家屋】
延床面積:120㎡
評価額:1,400万円
家屋の納税額
評価額1,400万円-特例1,200万円=課税標準額200万円
課税標準額200万円×税率3%=納税額6万円
土地の納税額
評価額3,000万円×特例1/2=課税標準額1,500万円
課税標準額1,500万円×税率3%=本来の税額45万円
1㎡当たりの価格10万円×延床面積200㎡×税率3%=軽減額60万円
※1㎡当たりの価格は3,000万円×1/2÷150㎡=10万円
※延床面積の2倍は240㎡なので上限の200㎡
本来の税額45万円-軽減額60万円=納税額0円
まとめ
不動産取得税の軽減措置は、住宅の床面積や耐震性能、土地の評価、住宅と土地の取得時期など、色々な適用要件があって覚えるのも大変です。
しかし、不動産を取得してから軽減措置を調べるのではなく、軽減要件を満たす不動産を購入する考えをしないと、購入してから税金に慌てても遅いわけです。
特に、住宅の床面積は、住宅の軽減と土地の軽減の両方に関係して影響がとても大きいため、要件を満たす前提で建築や購入を考えましょう。