特定空き家に対する措置件数と都道府県の空き家対策への熱量

空き家問題が言われ始めてからしばらくたちますが、未だ全国には老朽化して放置された空き家が無数に存在します。

国は空き家対策特別措置法を制定、自治体は空家等対策計画を策定することで空き家対策を行っているとはいえ、あなたの近所にも廃墟同然の空き家があるのではないでしょうか?

だからといって、自分が古い空き家の所有者である場合、周りにもあるから……などと甘く考えていてはいけません。

空き家対策特別措置法は、公権力で空き家を除却(解体)できる強い性質の法律で、実際にも全国各地で空き家が強制解体されているのです。

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空き家対策特別措置法を簡単におさらい

空き家対策特別措置法の施行後、放置しておけない(放置することが公益を損なうおそれがある)空き家は、特定空き家として認定されるようになりました。

この特定空き家は、空き家の所有者が様々な事情から管理できなかったり、そもそも空き家の所有者が不明だったりと、管理不全から老朽化が進んだ空き家です。

そこで、市区町村が何らかの対策をするのですが、特定空き家に対する措置は4段階に分かれており、徐々に重くなっていくため、措置が開始されたらできるだけ早く対処しなければなりません。

1.助言・指導
特定空き家に認定されると、自治体から改善するように助言・指導されます。所有者としてはこの段階で対処しておくのがベストです。

2.勧告
助言・指導により改善が見られないときは、改善措置が勧告されます。勧告されると、空き家の敷地に対する固定資産税・都市計画税が住宅用地の特例から外れます(つまり増税です)。

3.命令
正当な理由なく勧告された改善措置をとらないと、次は行政処分であたる命令となります。ちなみに、経済的な問題で改善したくてもできないことは、正当な理由に該当しない扱いです。

4.代執行
命令にも従わず、もはや所有者による改善が見込まれないとき、自治体が特定空き家を強制的に除却して(解体するのは委託された業者)その費用を所有者に請求します。なお、代執行による改善措置は除却に限られていませんが、特定空き家は存在自体が公益を損なうおそれがあるため、最も有効な手段として除却されているという現状です。

より詳しく知りたいときは、以下の記事を参考にしてください。

空き家対策特別措置法をわかりやすく解説~所有者は何をすべきなのか
空き家問題が深刻化していることを踏まえ、空き家対策特別措置法(正式名称:空家等対策の推進に関する特別措置法)が2015年(平成27年)5月26日から完全施行されています。 市町村(東京23区を含む。以下同じ)は、空き家対策特別措置法を後ろ盾...

このような段階的な流れにより、放置された空き家は減っていく(減らされていく)のですが、人口減少・少子高齢化に加えて、過剰な住宅供給が止まらない以上、必然的に空き家は増加していくことになります。

特定空き家に対する措置の実績数

国土交通省の資料から、平成27年度~平成30年度における措置の実績数を紹介します。明らかに各段階で増加傾向です。

平成27年度平成28年度平成29年度平成30年度合計
助言・指導2,8903,5154,2714,91015,586
勧告57210285370922
命令4194741111
行政代執行110121841
略式代執行8274049124
代執行合計9375267165
※データ:国土交通省「空家等対策の推進に関する特別措置法の施行状況等について」

まず、助言・指導が単年度で5,000件に迫ろうとしているのには驚かないでしょうか。それだけ多くの特定空き家が存在したことを意味していますし、これから認定される特定空き家はさらに増加するはずです。

勧告になると1桁下がるのですが、これは助言・指導を受けたことで所有者が素直に応じただけではなく、勧告によって土地の固定資産税・都市計画税が上昇することを懸念した影響でしょう。

ただし、特定空き家が借地上にあるときは、土地所有者が増税されるので空き家所有者へ直接の影響はありません。

代執行については、単年度で50件程度だとしても、個人の所有財産を公権力で除却する処分の重さを考えれば、十分に多い数だと個人的には感じました。

そして、行政代執行(所有者を把握)よりも、略式代執行(所有者が不明)が多く、所有者がわからないまま解体されていることがデータからわかります。

空き家の分類と修繕が必要な空き家の実数

空き家全体には、別荘などの二次的住宅や、売却用・賃貸用といった利用目的のある空き家も含まれますが、特定空き家の予備軍は管理不全の空き家ですから、それら利用目的のある空き家は基本的に含まれません。

利用目的のない空き家のことを「その他の空き家」と呼び、平成30年住宅・土地統計調査では約350万戸あります。

そのうち、腐朽・破損のある空き家が約100万戸あって、これが直近もしくは将来に特定空き家となるかもしれない空き家です。

この「その他の空き家」と「腐朽・破損あり空き家」の絶対数は、当然ながら住宅総数の多い大都市圏で多いのですが、その割合を見てみると必ずしも比例しません。

その他の空き家数その他の空き家率
(対住宅総数)
腐朽・破損あり空き家数腐朽・破損あり空き家率
(対その他の空き家数)
大阪府(209,200)高知県(12.8%)大阪府(56,500)沖縄県(45.1%)
東京都(180,000)鹿児島県(12.0%)北海道(46,300)徳島県(41.5%)
北海道(157,300)和歌山県(11.2%)愛知県(40,900)秋田県(38.3%)
兵庫県(151,900)島根県(10.6%)東京都(39,200)青森県(36.9%)
神奈川県(147,700)徳島県(10.3%)兵庫県(38,700)山梨県(35.5%)
千葉県(144,400)愛媛県(10.2%)千葉県(37,000)鹿児島県(35.0%)
愛知県(142,600)山口県(9.9%)福岡県(36,900)石川県(34.6%)
福岡県(126,000)香川県(9.6%)鹿児島県(36,800)新潟県(34.6%)
埼玉県(124,100)宮崎県(9.1%)神奈川県(33,600)宮崎県(34.1%)
広島県(114,200)三重県(9.1%)埼玉県(32,000)岐阜県(33.5%)
全国(3,487,200)全国(5.6%)全国(1,006,000)全国(28.8%)
※データ:平成30年住宅・土地統計調査を基に計算

その他の空き家が住宅総数に占める割合は西日本で高く、特に四国4県が上位10に全て入っているのは注目です。一方で、腐朽・破損あり空き家がその他の空き家に占める割合は、地域性が見られず全国各地に存在します。

空き家の絶対数が多い大都市圏はもちろんのこと、腐朽・破損あり空き家の割合が高い地方でも、対策しなければ特定空き家がすぐに増えてしまうということです。

特定空き家への取り組みは都道府県で温度差がある

さて、特定空き家への措置が年々増加していることは、前述のデータで示されているわけですが、実は都道府県別に見てみるとかなりの差があります。

「その他の空き家」や「腐朽・破損あり空き家」の絶対数が多い都道府県で措置が多いとも限らず、割合の高い都道府県で措置が多いわけでもありません。

となれば、空き家対策への熱量に都道府県で差があると考えて良いのではないでしょうか? 具体的に助言・指導が多い都道府県、少ない都道府県を見てみましょう。

都道府県助言・指導件数腐朽・破損あり空き家数腐朽・破損あり空き家率
(対その他の空き家数)
北海道1,77646,30029.4%
新潟県1,31622,40034.6%
京都府1,00320,90025.7%
千葉県99237,00025.6%
兵庫県97638,70025.5%
※データ:国土交通省「空家等対策の推進に関する特別措置法の施行状況等について」、平成30年住宅・土地統計調査
※助言・指導の件数は平成27年度~平成30年度の累計
都道府県助言・指導件数腐朽・破損あり空き家数腐朽・破損あり空き家率
(対その他の空き家数)
沖縄県512,10045.1%
香川県1112,20026.1%
徳島県1216,30041.5%
山梨県1413,00035.5%
愛媛県2623,40032.0%
※データ:国土交通省「空家等対策の推進に関する特別措置法の施行状況等について」、平成30年住宅・土地統計調査
※助言・指導の件数は平成27年度~平成30年度の累計

上位5都道府県と下位5都道府県で、助言・指導の数に差がありすぎますよね。

データから見えること

特定空き家は市区町村が認定するのですから、単に現状を示すに過ぎない腐朽・破損あり空き家とは違うものですし、特定空き家の認定において、腐朽・破損の度合いは一要素にすぎません。

特定空き家の認定基準を知って適切な空き家管理をしよう
空き家の所有者にとって一番の悩みは管理です。適切な管理が行われていない空き家は、老朽化が進んで物件としての価値を下げるだけではなく、周辺住民にとっても害悪になる可能性すらあります。 国は、空き家問題に対処するため空き家対策特別措置法を制定し...

したがって、特定空き家への助言・指導の件数と、腐朽・破損あり空き家数は異なる指標ですが、両者には相関性があってしかるべきです。

なぜなら、腐朽・破損あり空き家が多いほど、そして割合が高いほど、必要なら特定空き家に認定するといった空き家対策のスキームを積極的に実行し、改善するよう助言・指導していかなければならないからです。

ところが、特定空き家に対する助言・指導の件数は、どう考えても腐朽・破損あり空き家数と比例していません。

特に気になるのは、その他の空き家率が高いと紹介した四国4県のうち高知県を除く3県と、腐朽・破損あり空き家率が全国一高い沖縄県で、ほとんど特定空き家への助言・指導が行われていない点です。

たまたま特定空き家に認定される空き家が少なかったとは思えず、助言・指導が極端に少ない都道府県は、空き家の実態調査すら満足にできていないのではないか――そう勘繰ってしまうほど、あまりに差がある結果となりました。

代執行が多くされた都道府県

都道府県行政代執行略式代執行代執行合計
兵庫県21820
福岡県4711
千葉県3811
新潟県459
北海道459
※データ:国土交通省「空家等対策の推進に関する特別措置法の施行状況等について」
※平成27年度~平成30年度の累計

代執行については、特定空き家の所有者が把握できたかどうか、所有者が改善措置に応じるかどうかといった、個別の事情で数が変わりますので件数だけでは語れません。

ただ、助言・指導→勧告→命令→代執行の順に措置が進んでいくことから、助言・指導の多い都道府県ほど代執行の数も増える傾向にあるのは確かです。

最後に:空き家活用との関係性

空き家の所有者としては、空き家対策に消極的な自治体ほど、特定空き家への認定までに猶予があると考えるでしょうか。

空き家をどうしようか持て余しているのなら、確かに時間の猶予は気を楽にしますが、空き家活用(売却を含む)を考えた場合、自治体が空き家対策に消極的なことは決してプラスに働きません

なぜなら、空き家対策というのは、所有者が自ら空き家を利活用して空き家が減れば最善なわけで、そのためのフォローアップも重要な対策の一環だからです。強制的な空き家の除却は、あくまでも公益のための最終手段という位置付けに過ぎません。

即ち、空き家対策に積極的な自治体ほど、空き家の利活用に関する助成・補助制度がしっかりしており、所有者が取ることのできる選択肢も増えます。

ですから、特定空き家に対する措置が多い地域で空き家を所有している人は、まず自治体に相談してみるべきと言えるでしょう。

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