親の土地に子供が家を建てるときは使用貸借か賃貸借か

子供がマイホームを検討していても、土地が高くて手が出ないときに、実家の敷地など親の土地に家を建てることが良くあります。

お互い近くに住んでいることの安心感や、孫に会える・面倒を見てもらえるメリットがあり、土地の購入費がかからない経済的な理由以外にも動機はあるでしょう。

ところで、親は土地を貸す以上、子供から地代を受け取れますが、地代を受け取らない使用貸借のケースが多いですよね。一方で、地代を受け取って賃貸借にしないと、使用貸借は相続税が高くなるという話もよく聞きます。

だからといって、名目に過ぎない低額な地代で済むほど甘くありません。親子間なら使用貸借でいいのでは? というのがこの記事の結論です。

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土地の使用貸借と賃貸借での相続税評価

使用貸借は、貸主の温情や好意による無償の貸借契約なので、借主の土地使用権は弱く、相続税評価においては評価額ゼロです(借地権が評価されません)。

したがって、土地所有者が自己使用している「自用地」という扱いを受け、おおむね時価(地価公示価格)に対して8割相当の相続税評価額となります。

【使用貸借での相続税評価の例】

土地の時価:5,000万円
相続税評価額=5,000万円×80%=4,000万円(路線価ベース)

一方の賃貸借では、借主が建物の所有を目的としていますので借地権が発生します。

そうすると、貸主は借地権によって土地の利用を制限され、自由に使える自用地と同じ評価をすることはできません。借地権のある土地は評価減があります。

【底地と借地権】

土地に借地権がある場合、ひとつの土地の権利を「借地権」と「借地権によって制限を受ける所有権」に分け、この制限を受ける所有権が「底地(または底地権)」と呼ばれます。

底地(貸主)と借地権(借主)は、それぞれ個別に評価されるとはいえ、物理的に土地が分かれるものではなく評価上・取引上の概念です。

底地の評価は、自用地評価から借地権評価を控除したものですが、借地権を個別に評価するのは煩雑なことから、地域性のある「借地権割合」という特定の値が使われます。

借地権割合
自用地の所有権を100%の評価としたときにおける借地権の評価割合。A~Gが90%~30%で表され、相続税路線価図や倍率表で確認できる。

仮に、借地権割合が70%と仮定した場合、土地の相続税評価は次のとおりです。

【賃貸借での相続税評価の例】

土地の時価:5,000万円
借地権割合:70%
自用地の評価額=5,000万円×80%=4,000万円(路線価ベース)
底地の評価額=4,000万円×(1-0.7)=1,200万円

自用地と比べて、借地権割合が高いほど底地の相続税評価は下がります。

このことから、親子間でも賃貸借にしないと土地の相続税を節税できないと言われるのですが、賃貸借は結構ハードルが高いのです。

借地権の権利金と贈与税

相続税を節税するため、賃貸借にするとしましょう。この時、借地権に対して権利金を支払う取引慣行のある地域では、子供から親に権利金を支払う必要があります

借地権がある場合、土地が借地権と底地に分かれると説明したように、借地権の権利金は、土地の時価に借地権割合を乗じた金額です。

権利金=土地の時価×借地権割合

つまり、5,000万円の親の土地に子供が家を建てるとき、借地権割合が70%なら3,500万円、借地権割合が50%なら2,500万円が妥当な権利金です。

借地権は、最低でも30年の存続期間が定められており(借地借家法第3条)、貸主に正当事由がなければ、ほぼ永続的に借主が土地を利用できる権利であることから、借地権の権利金は、借地権割合の分だけ土地を購入するのと実質変わりません

したがって、本来支払うべき借地権の権利金を支払わず、地代だけの支払いになっていると、親から子供へ借地権相当額(権利金)の利益供与があったとみなされ、多額の贈与税が発生します

親の土地に子供が家を建てる主な動機(土地購入による経済的負担の解消)から考えて、子供が親に権利金と地代を支払うのは現実的ではないと感じないでしょうか。

通常の地代と相当の地代

地代に関する税務上の用語として、通常の地代と相当の地代というものがあります。

土地を借地権と底地に分けたとき、底地に対する地代を通常の地代と呼び、土地全体に対する地代を相当の地代と呼びます。どちらも地代の算定は年6%です。

  • 通常の地代=過去3年間の自用地の評価額の平均額×(1-借地権割合)×年6%
  • 相当の地代=過去3年間の自用地の評価額の平均額×年6%

借主が権利金を支払って借地権を取得すると、借地権に相当する部分は地代の対象にならないため、底地に対して発生する通常の地代は、一般的な地代の考え方と同じです。

対して、相当の地代とは土地全体の地代ですから、借地権に相当する部分にも地代を支払っていることになり、借主が権利金を支払わなくても、借地権による利益は発生していません。

したがって、賃貸借において贈与税を発生させないためには、

  • 権利金を支払って通常の地代(または周辺相場の地代)を支払う
  • 権利金を支払わず相当の地代(土地全体の地代)を支払う

上記のどちらかが必要です。

しかしながら、土地の時価が5,000万円、自用地の評価額が4,000万円だとして、相当の地代は4,000万円×6%=年額240万円(毎月20万円)にもなり、権利金を支払わないとしても、相当の地代を子供が支払うのは経済的にきついでしょう。

もし、賃貸借が20年程度続いた場合、子供が支払う権利金+通常の地代(または権利金なし+相当の地代)の総額は、土地を購入するのと変わらない水準に達します。

これでは、土地の相続税どころの話ではありませんね。

賃貸借の落とし穴は親子間の現金移動

賃貸借で相続時の評価額が底地相当になると、確かに土地の相続税は節税できますが、相続までの全体を考えた場合、賃貸借が節税になるとは限りません

権利金は親の不動産所得(土地価格の1/2を超える場合は譲渡所得)、地代は親の不動産所得となり、当然に所得税・住民税の対象です。

ということは、子供が権利金と地代を支払うことによって、親子全体の現金資産は、親の所得税・住民税で減っていくことになります

所得税は累進課税なので、親の課税所得が高いほど所得税率は高くなり、毎年の地代相当額にかかる所得税も高くなって、親に残る現金が大きく目減りします。

さらに、親が受け取った権利金・地代から所得税・住民税を除いた残額を、相続までに費消していないときは、子供に相続されて相続税の対象になるのです。

つまり、賃貸借での権利金・地代は、子供から親へ支払われて税金が引かれ、相続で親から子供へ戻っても税金が引かれるのですから、賃貸借はわざわざ税金の発生源を親子で作り、現金資産を減らしているのと変わりません

これは、土地の相続税ばかり気にして、落とし穴にハマる典型例です。

使用貸借では原則として贈与税が発生しない

使用貸借では、土地の使用権(賃貸借では借地権)と地代相当額が、子供へ無償供与されているように思えますが、使用貸借の土地使用権や地代相当額に対して、贈与税が課せられることは原則ありません

まず、賃貸借の借地権と異なり、使用貸借による土地使用権は評価額がゼロです(国税庁「使用貸借に係る土地についての相続税及び贈与税の取扱いについて」)。

次に地代相当額ですが、親子間のような特殊な関係において「金額が少額である場合又は課税上弊害がないと認められる場合」は、贈与としての取扱いをしなくてもよいとされています(相続税基本通達9-10)。

もっとも、どのくらいが「少額」で、どのくらいが「課税上弊害がない」のか明らかにはされておらず、地代相当額が高額(基礎控除110万円超)のときは、贈与税を意識しておく必要はあるでしょう(暦年課税の場合)。

このように、土地の相続税評価が自用地となることを除くと、権利金・地代のない使用貸借のほうが、子供の負担を軽くしたい親心に合致していると感じます。

固定資産税を負担しても使用貸借

タダで借りるのは申し訳ないということで、土地の固定資産税を子供が負担するケースはあると思いますが、固定資産税の負担があっても、賃貸借とはならず使用貸借として扱われます(最高裁昭和41年10月27日判決)。

また、民法上、使用貸借では借主が通常の必要費を負担するとされており(民法第595条第1項)、通常の必要費には公租公課も含まれると解されているため、借主である子供が土地の固定資産税を負担しても、使用貸借契約として当然の負担なのです。

したがって、固定資産税相当額の地代では賃貸借と認められません。

むしろ、賃貸借にしたいあまり、子供が固定資産税を超える地代を支払って、なおかつ権利金を支払わない場合のケースは危険です。

権利金なしの中途半端な地代は、多額の贈与税を発生させるので絶対にやめましょう

参考:通常の地代と固定資産税の比較

土地の時価:5,000万円
地積:200㎡
借地権割合:70%
自用地の評価額=5,000万円×80%=4,000万円(路線価ベース)

通常の地代
通常の地代=4,000万円×(1-0.7)×6%=720,000円

家を建てる前の土地の固定資産税
固定資産税評価額=35,000,000円(時価の7割相当)
課税標準額=24,500,000円(宅地の更地は固定資産税評価額の70%が上限)
家を建てる前の固定資産税=24,500,000円×1.4%=343,000円

家を建てた後の土地の固定資産税
固定資産税評価額=35,000,000円(時価の7割相当)
課税標準額=5,833,000円(住宅用地特例で1/6、1,000円未満切り捨て)
家を建てた後の固定資産税=5,833,000円×1.4%=81,600円(100円未満切り捨て)

考えるべきは土地の相続税より土地を誰に相続させるか

使用貸借は、貸主が死亡しても相続人が貸主の地位を引き継ぎますが、相続人が誰になるのかは使用貸借している子供にとって重要です。

遺産分割が確定するまでの間、共同相続人による共有状態となりますので、相続後に使用貸借を巡ってトラブルになる可能性は否定できません

ですから、相続人が複数いるときは、使用貸借に同意している配偶者、もしくは使用貸借している子供本人に土地の所有権を相続させて、土地の使用を継続させる工夫が必要でしょう。

考えられる方法としては、相続させる旨の遺言、遺贈、死因贈与です。

まとめ

  • 賃貸借は相続時に底地評価(安い)、使用貸借は自用地評価(高い)
  • 賃貸借では借地権割合に応じた権利金を支払う必要がある(地域性あり)
  • 賃貸借で権利金を支払わないと贈与税が課せられる
  • 賃貸借で権利金を支払わず贈与税を回避するには年6%の「相当の地代」が必要
  • 使用貸借は原則として贈与税が発生しない
  • 固定資産税以下の地代は使用貸借と扱われる
  • 使用貸借をしている土地を誰が相続するか考慮すべき

子供の経済的負担を第一に考えると、土地の相続税が高くなっても、相続前にそれ以上の負担があるのでは本末転倒ですよね。

「タダより高いものはない」と言われますが、少なくとも親の土地に子供が家を建てるときは、使用貸借のほうがよさそうです。あなたはどう思いましたか?

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