親の家を子供がリフォーム、子の家を親がリフォームなど、リフォームによって家の所有者に利益供与があると贈与税の対象になります。
贈与税はとても税率が高いので、可能な限り贈与税を減らしたい、できれば贈与税がかからないようにしたいところですよね。
リフォームの贈与税を回避するためには、リフォームでの利益供与を持分移転で相殺する方法と、税制度を活用する方法があります。
これらの仕組みと注意点について解説していきます。
何も対策せずリフォームした場合の贈与税
以降、説明のために、親の家を子がリフォームする前提にしていますが、子の家を親がリフォームするときは親子を逆にしてください。
【モデルケース】
- 家の名義:親の単独所有
- リフォーム前の家の時価:1,200万円
- リフォーム代金:600万円を子が負担
- リフォーム後の家の時価:1,800万円に上昇
リフォームする家の所有者と、リフォーム資金を提供する人が異なる場合、何も対策せずにリフォームすると高額の贈与税が発生します。
贈与税は、最高税率が55%にもなる負担の重い税金で、子が親に600万円贈与した場合、親が子に600万円贈与した場合の贈与税は、それぞれ次のとおりです。
【子から親に600万円贈与したときの贈与税】
贈与税額=(600万円-110万円)×30%-65万円=82万円
【親から子に600万円贈与したときのの贈与税】
贈与税額=(600万円-110万円)×20%-30万円=68万円
リフォーム代金が1,000万円では、さらに贈与税が高くなります。
【子から親に1,000万円贈与したときの贈与税】
贈与税額=(1,000万円-110万円)×40%-125万円=231万円
【親から子に1,000万円贈与したときのの贈与税】
贈与税額=(1,000万円-110万円)×30%-90万円=177万円
親から子への贈与で贈与税が安くなるのは、直系尊属(父母や祖父母など)からの贈与に限り、税率の少し低い特例適用があるからです。
基礎控除後の価格 | 一般税率と控除額 | 特例税率と控除額 |
---|---|---|
200万円以下 | 10% | 10% |
300万円以下 | 15%-10万円 | 15%-10万円 |
400万円以下 | 20%-25万円 | |
600万円以下 | 30%-65万円 | 20%-30万円 |
1,000万円以下 | 40%-125万円 | 30%-90万円 |
1,500万円以下 | 45%-175万円 | 40%-190万円 |
3,000万円以下 | 50%-250万円 | 45%-265万円 |
4,500万円以下 | 55%-400万円 | 50%-415万円 |
4,500万円超 | 55%-640万円 |
子から親への贈与、親から子への贈与のいずれでも、贈与税が高いことには変わりなく、贈与税がかからないようにするためには、工夫してリフォームしなければなりません。
リフォーム前の持分移転で贈与税を回避
まず、リフォーム後の家の価格1,800万円に対するリフォーム代金600万円の割合を求めます。
①リフォーム後の家の価格に対するリフォーム代金の割合を計算
600万円÷(1,200万円+600万円)=1/3
次に、求められた割合だけ親から子に「売買」で持分移転します(重要)。
②親から子に持分移転
- 親の持分割合:2/3(リフォーム前800万円相当)
- 子の持分割合:1/3(リフォーム前400万円相当)
持分1/3を譲り受けた子は、持分の購入代金400万円の支払債務を負いますが、リフォーム代金600万円を全額負担してリフォームを行うことで、支払債務に代えることができます。
③子の全額負担でリフォーム
- 親の持分2/3に対するリフォーム:親に400万円の利益=子が購入した持分1/3の対価
- 子の持分1/3に対するリフォーム:自己負担分200万円
つまり、子が持分の購入代金400万円を親へ支払ってから、親が400万円・子が200万円をそれぞれ出してリフォームしたのと変わらず、贈与になる利益供与が存在しません。
リフォーム後の持分移転で贈与税を回避
リフォーム後の持分移転においても、リフォーム後の家の価格1,800万円に対して、リフォーム代金600万円の割合を求めるのは同じです。
①リフォーム後の家の価格に対するリフォーム代金の割合を計算
600万円÷(1,200万円+600万円)=1/3
リフォーム後の持分移転では、先に子の全額負担でリフォームをします。
②子の全額負担でリフォーム
- 親の家に対するリフォーム:親に600万円の利益
子が負担した600万円のリフォーム代金は、そのまま親に対する利益供与となりますので、贈与とみなされないためには、親から子にリフォーム代金の支払いがなくてはなりません。
そこで、親は600万円相当の持分を、子へ移転することでリフォーム代金を弁済します。持分移転の登記原因は「代物弁済」です。
③リフォーム代金相当分を子へ持分移転
- 親の持分割合:2/3(リフォーム後1,200万円相当)
- 子の持分割合:1/3(リフォーム後600万円相当)
リフォーム後の持分移転では、子が立て替えたリフォーム代金600万円を、親がリフォーム後に持分で支払ったのと同じで贈与になりません。
税制度を活用して贈与税を回避
持分移転をせず、税制度を活用して贈与税の回避を考えてみましょう。
親の家を子がリフォームする場合
単純に、親の家を子がリフォームすると、リフォーム代金の贈与は避けられません。
そこで、リフォーム前に親から子へ家を贈与してしまい、子自身が所有する家のリフォームにすることで贈与税を回避する方法があります。
この時、リフォームでの贈与は回避できても、親から子へ家を贈与したことが贈与税の対象になりますから、相続時精算課税の特別控除額2,500万円を使って、家の贈与にも贈与税がかからないようにするのがポイントです。
相続時精算課税に対して、毎年110万円の基礎控除で計算する方法を「暦年課税」と呼ぶ。
ただし、相続時精算課税による生前贈与は相続の前倒しなので、贈与時に贈与税は発生しませんが、相続時には(贈与時の評価額で)相続財産へ持ち戻されて相続税が計算されます。
したがって、贈与税を回避してもトータルの節税になるとは限らず、相続税が発生するほどの資産がない場合に、相続時精算課税を使った贈与税の回避が有効です。
子の家を親がリフォームする場合
親から子へのリフォーム資金提供も当然に贈与となりますが、直系尊属(父母や祖父母など)からの住宅取得等資金の贈与は、一定額を非課税にできる特例があります。
この特例は、延長のたびに非課税枠が小さくなっており、令和4年1月1日~令和5年12月31日の間、非課税枠は500万円(省エネ等住宅は1,000万円)です。
No.4508 直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税 – 国税庁
事例では、リフォーム代金が600万円だったので、非課税枠500万円と暦年課税の基礎控除110万円に収まり、贈与税をかからないようにできます。
【住宅取得等資金の非課税+暦年課税】
リフォーム代金600万円-住宅取得等資金の非課税500万円-基礎控除100万円=0円
しかし、リフォーム代金が610万円(省エネ等住宅は1,110万円)を超えてしまい、暦年課税の基礎控除で控除しきれない場合は、相続時精算課税を選択します。
仮にリフォーム代金が1,000万円だとしましょう。
【住宅取得等資金の非課税+相続時精算課税】
リフォーム代金1,000万円-住宅取得等資金の非課税500万円-相続時精算課税500万円=0円
上記のように、全額を控除することはできますが、相続時精算課税では相続時に精算(相続財産への持ち戻し)があるため、とりあえず贈与税を回避できているに過ぎません。
住宅取得等資金の非課税で控除しきれない分は、相続時精算課税を使わず、子から親へ持分移転して相殺することも検討すべきです。
譲渡所得税と不動産取得税
リフォーム前の持分移転(売買)、リフォーム後の持分移転(代物弁済)では、持分を譲渡した側に譲渡所得税が課せられる可能性があります。
しかし、建物の時価が、未償却残高(取得費から減価償却した残価)よりも高い価格になるとは考えにくく、持分移転による譲渡所得は問題にならないでしょう。
むしろ、市場流通性の低い持分は、建物の時価×持分割合よりも低い価格で譲渡されるほうが妥当です。ただし、著しく低廉な価格による譲渡は、贈与とみなされる危険があるので注意してください。
一方で、家全体または持分を譲り受けた側には、不動産取得税が課せられます。
不動産取得税の課税は避けられませんが、建物の固定資産税評価額×3%×持分割合(持分譲渡の場合)ですから、不動産取得税の負担よりも贈与税を回避できた利益がはるかに上回ります。
あとがき
リフォーム資金を誰かに負担してもらう以上、タダでリフォームしてもらって持分を渡したくない、贈与税も支払いたくないという都合の良い話はありません。
持分移転での方法にデメリットがあるとすれば、親子の共有名義になってしまう点です。
例えば、子が一人なら親子の共有名義になっても、いずれは相続で子の単独名義になって心配ないですが、子が複数のときは、親の共有持分を兄弟姉妹が遺産共有するので、争いの元になる可能性を否定できないでしょう。
親子間のリフォームでは、贈与税だけにとらわれず将来を見据えた慎重な判断が求められます。