民法改正で共有不動産の占有に明け渡し請求できるかも?しれない

令和5年4月1日から施行される改正民法(令和3年法律第24号による改正)では、共有制度の規定がずいぶんと見直されました。

変更点が多いので全てを説明することはできませんが、タイトルとした共有不動産の占有と明け渡し請求について、これまでと変わる可能性を秘めています。

従来、持分権者のひとりが共有不動産を占有している場合の対応としては、

  • 原則として明け渡し請求はできない
  • 占有者への不当利得返還請求または共有物分割請求で解決する

というのが、実務上での共通認識になっていました。改正民法は、この点に大きな影響を与えそうな感触です(今のところ当サイト管理人の私見ですが)。

占有共有者への明け渡し請求の可否と最高裁判決

共有不動産の占有者に対し、明け渡し請求が原則認められないとしているのは、昭和41年5月19日最高裁判決によるところです。

思うに、共同相続に基づく共有者の一人であつて、その持分の価格が共有物の価格の過半数に満たない者(以下単に少数持分権者という)は、他の共有者の協議を経ないで当然に共有物(本件建物)を単独で占有する権原を有するものでないことは、原判決の説示するとおりであるが、他方、他のすべての相続人らがその共有持分を合計すると、その価格が共有物の価格の過半数をこえるからといつて(以下このような共有持分権者を多数持分権者という)、共有物を現に占有する前記少数持分権者に対し、当然にその明渡を請求することができるものではない。けだし、このような場合、右の少数持分権者は自己の持分によつて、共有物を使用収益する権原を有し、これに基づいて共有物を占有するものと認められるからである。従つて、この場合、多数持分権者が少数持分権者に対して共有物の明渡を求めることができるためには、その明渡を求める理由を主張し立証しなければならないのである。
引用元:最高裁判所判例集

長いですがポイントは4つあります。

  1. 少数持分権者は、他の共有者との協議を経ないで当然に共有物を単独で占有する権原を有するものではない
  2. 共有物を占有している少数持分権者に対し、多数持分権者であっても当然に明け渡し請求できるものではない
  3. 少数持分権者は、自己の持分による権原で共有物を占有していると認められる
  4. 明け渡しを求めるには、明け渡しを求める理由を主張し立証しなければならない

共有者は、それぞれが持分に応じて共有物の「全部」を使用できますので(民法第249条)、持分割合とは関係なく、どの共有者にも共有物の全部を使用する権原があります。

ただし、共有物の全部を使用することで得られる利益は、持分割合に応じて他の共有者へ分配されなければなりません。

したがって、他の共有者から明け渡し請求はできないとしても、占有共有者の持分を超えた利得を不当だと主張して返還請求できます。

もっとも、占有が他の共有者を強行排除して始まっていたり、共有者間の合意に反して占有していたりと、占有共有者に不法性を問うことができる事案では、明け渡し請求できないわけでもありません。

ここまでが、従来における占有共有者への対処方法です。

未協議の占有に早い者勝ちを認めているとの批判

判例は、少数持分権者が他の共有者と協議せずに占有する権原を有しないとしながらも、既に開始された占有に対して、持分による権限で占有していると認めています。

そうすると、協議なしに占有を開始してしまえば、明け渡しには至らないことになり、これは占有者のいわゆる早い者勝ちでしょう。

占有共有者から相場賃料の持分相当額を受け取るよりも、自分が占有使用したい共有者にとって、現状が変わらない不当利得返還請求は何の解決にもなりません。

現行民法と改正民法の第252条

現行民法第252条は、共有物の管理に関する事項(利用方法も含まれる)が、過半数持分で決められることを規定しています。

民法 第二百五十二条

共有物の管理に関する事項は、前条の場合を除き、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決する。ただし、保存行為は、各共有者がすることができる。

一方、改正民法第252条第1項は、共有物の管理に関する事項が、過半数持分で決められることは同じですが、「共有物を使用する共有者があるときも、同様とする。」とする一文が加えられました。

改正民法 第二百五十二条(令和五年四月一日施行)

共有物の管理に関する事項(次条第一項に規定する共有物の管理者の選任及び解任を含み、共有物に前条第一項に規定する変更を加えるものを除く。次項において同じ。)は、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決する。共有物を使用する共有者があるときも、同様とする。
2 (略)
3 前二項の規定による決定が、共有者間の決定に基づいて共有物を使用する共有者に特別の影響を及ぼすべきときは、その承諾を得なければならない。
4 (略)
5 各共有者は、前各項の規定にかかわらず、保存行為をすることができる。

そもそも論として、過半数とは「共有者全員の協議による過半数持分」と「協議参加者にかかわらず過半数持分」のいずれか不明瞭ですが、加えられた一文には重要な意味があります。

事前協議と事後協議の問題

占有が開始される前に共有者間で合意した占有者と、現に占有している占有者が異なる場合は、占有者の非が明らかな一方で、事前協議なしに占有が開始された場合、後から協議して占有者を変えるためには、共有者全員の同意を必要とする見解が有力です。

協議なしに占有が開始されたとはいえ、持分による権限で占有している共有者の利益を、同意なく(過半数持分で)奪うことは相当ではないと考えられているからです。

ただし、現行民法では占有に共有者の事前協議が必要とは規定されていませんし、事後協議による利用方法の決定に共有者全員の同意が必要とも規定されていません。

過半数持分で可能なはずの管理行為が、状況によって全員の同意となれば、共有物の利用は慎重にならざるを得ず、多くの紛争の引き金にもなっています。

無断で占有した共有者を保護すべきか問題

前述のとおり、未協議で占有を開始した共有者に明け渡し請求が認められず、後から占有者を変更しようとしても共有者全員の同意を必要とする(当然に占有共有者は反対する)のでは、占有者が間違いなく有利です。

しかし、共有物の利用方法は共有者全員で決めるのが理想であり、意見が割れたときに過半数持分で決するのは仕方がないとして、無断で占有を開始した共有者を保護すべき必要性がどれほどあるのか? という疑問が生じます。

それとは逆に、事前協議で定められた占有者が問題なく占有している状況で、後から過半数持分により占有者を変更するときは、現在の占有者に対する何らかの保護は要求されるでしょう。

無断占有者の保護の必要性は高くないとされた

改正民法の法制審議会では、「特段の定めがないにもかかわらず事実上利用(占有)する者を保護する必要性は高くない」と説明されていました。

改正民法第252条第1項に、「共有物を使用する共有者があるときも、同様とする。」と追加されたのは、上記の考え方を反映したものです。

つまり、無断で占有を開始されても、後から過半数持分による利用方法の決定を可能と明記したのが、改正民法第252条第1項なのです。

また、第252条第3項では、事前協議で定められた占有者に対する保護(特別の影響を及ぼすときに承諾を要する旨)も盛り込まれています。

判例と改正民法の関係

ここで、昭和41年5月19日最高裁判決のポイントをもう一度見てみましょう。

  1. 少数持分権者は、他の共有者との協議を経ないで当然に共有物を単独で占有する権原を有するものではない
  2. 共有物を占有している少数持分権者に対し、多数持分権者であっても当然に明け渡し請求できるものではない
  3. 少数持分権者は、自己の持分による権原で共有物を占有していると認められる
  4. 明け渡しを求めるには、明け渡しを求める理由を主張し立証しなければならない

注目したいのは、2の「当然に明け渡し請求できるものではない」という点と、4の「明け渡しを求める理由を主張し立証しなければならない」という2点です。

これらから導かれるのは、明け渡しを求める理由があれば、明け渡し請求は認められるという帰結ですが、占有者の変更には共有者全員の同意が必要だとする解釈や、権利の濫用だとして否定する解釈がありました。

しかしながら、改正民法第252条第1項では、共有物が占有されていても過半数持分で利用方法を決められます。

その結果、占有開始後に過半数持分で決められた利用方法は、明け渡し請求の正当な理由のひとつになるのではないでしょうか。少なくとも、理由がないとして請求が棄却されるのは減りそうです。

もちろん、いくら過半数持分で利用方法を決められるからといって、全ての明け渡し請求が認められるとは到底考えられず、各共有者が、自己の持分による権原で共有物の全部を使用できるのは、改正民法においても変わりません。

多数持分権者がより優位になったことへの懸念

改正民法の施行によって、占有共有者に対する他の共有者からの対処方法は、持分の多少によって次のようになります。

占有者が多数持分権者の場合

  • 当然には明け渡し請求できない(理由の主張・立証が必要)
  • 不当利得返還請求
  • 共有物分割請求

占有者が少数持分権者の場合

  • 事前協議がなければ過半数持分で共有物の利用方法を決定して明け渡し請求できる
  • 事前協議があっても過半数持分で共有物の利用方法を変更して明け渡し請求できる(占有者に特別の影響を及ぼす場合を除く)
  • 不当利得返還請求
  • 共有物分割請求

持分の多少にかかわらず、明け渡し請求は占有共有者の持分による使用を排除しようするものですから、性質としては変わらないはずですが、多数持分権者をより優位にした今回の改正には懸念の声もあるでしょう。

あとがき

改正民法が施行されても、明け渡し請求訴訟の判決が出てくるまでは時間がかかりますので、実際にはどのように判示されるか結果を待ちたいところです。

今回の改正は、協議なしに無断で占有した占有者への保護を、弱める方向で立法されており、改正民法第252条第1項によって、明け渡し請求の理論構成が組み立てやすくなったと思われます。

仮に、多数持分権者からの明け渡し請求が認められやすくなったとしても、明け渡しが実現されるとは限りませんが(過酷執行というハードルがあるので)、一歩進んだのではないでしょうか。

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