共有不動産で固定資産税の減免があったら「別段の意思」に注意せよ

共有不動産の固定資産税は、共有者全員が連帯して納付する義務を負います(地方税法第10条の2第1項)。

連帯債務なので、各共有者は固定資産税の全額について連帯納付義務を負っていますが、普通は市町村に届け出ている共有者の誰か(代表者)が納付して、他の共有者へ持分割合に応じた請求をする形になるでしょう。

ところで、各共有者の全員に、固定資産税を負担できる資力があるとは限りません。

例えば、共有者の一人が生活保護受給者になると、申請によって固定資産税が減免されます。通常は、持分に応じた額が全額免除となるため、ここでは免除とします。

その際、共有者への免除が他の共有者に影響するかどうかは、令和2年4月1日施行の民法から取り扱いが変わりました

具体的には、共有者が免除されたときに、その効果が他の共有者に及ぶのか及ばないのか(固定資産税が減るのか減らないのか)という違いとなり大きな変更です。

詳細は後述するとして、調べてみるとどうやら市町村によって扱いが違いますよ。というのがこの記事のテーマです。

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民法改正前:令和2年3月31日までの扱い

民法の改正前は、連帯債務者の一人について債務免除があると、免除された連帯債務者の負担部分は、他の連帯債務者に影響していました(絶対的効力といいます)。

改正前民法 第四百三十七条(令和2年3月31日まで)
連帯債務者の一人に対してした債務の免除は、その連帯債務者の負担部分についてのみ、他の連帯債務者の利益のためにも、その効力を生ずる。

固定資産税の場合、各共有者の負担部分を持分割合として、共有者の一人が免除されると、免除された分だけ固定資産税が減ります。

  • 固定資産税額が60,000円
  • 代表者Aの持分1/2、Bの持分1/4、Cの持分1/4
  • Cが免除された場合

Cの負担部分60,000円×1/4=15,000円は免除される。
AとBは、Cの免除による15,000円を除いた45,000円を連帯して納付する。

代表者Aが45,000円を納付すると、Bの負担部分15,000円を求償することができます。

民法改正後:令和2年4月1日からの扱い

改正後の民法では、第437条が削除され第441条が適用されます。連帯債務者の一人について債務免除があっても、他の連帯債務者には影響しないことになりました(相対的効力といいます)。

民法 第四百四十一条(令和2年4月1日から)
第四百三十八条、第四百三十九条第一項及び前条に規定する場合を除き、連帯債務者の一人について生じた事由は、他の連帯債務者に対してその効力を生じない。ただし、債権者及び他の連帯債務者の一人が別段の意思を表示したときは、当該他の連帯債務者に対する効力は、その意思に従う。
e-Gov 民法

固定資産税の場合、共有者の一人が減免されても、他の共有者に固定資産税の全額を納付する義務があります。

  • 固定資産税額が60,000円
  • 代表者Aの持分1/2、Bの持分1/4、Cの持分1/4
  • Cが免除された場合

Cの負担部分60,000円×1/4=15,000円は免除される。
AとBは、Cの免除にかかわらず引き続き60,000円を連帯して納付する。

代表者Aが60,000円を納付すると、Bに負担部分15,000円を求償することができるのは同じですが、Cにも負担部分15,000円を求償することができます。

しかし、Cは無資力で償還できないため、実際にはAとBがCの15,000円を分担します。

民法第441条ただし書きの適用と減免の効力

民法第441条では、ただし書きに「債権者及び他の連帯債務者の一人が別段の意思を表示したときは、当該他の連帯債務者に対する効力は、その意思に従う。」とあります。

つまり、市町村(債権者)と他の共有者(連帯債務者)の一人が、減免の効力を他の共有者に生じさせる旨の意思(別段の意思)を表示すれば、民法改正前と同様に他の共有者が負担すべき固定資産税は減ります。

法律上、債権者と納税者の双方で、意思表示が必要なことに注意してください。

各市町村のホームページを確認してみた

さて、他の共有者が意思表示をせず、あえて減免の効力を求めないことも可能ですが、せっかく減る固定資産税を、わざと減らさない選択がされるとは思えません。

ところが、減免の効力を他の共有者に生じさせるためには、市町村の意思表示だけでは足りず、他の共有者からの意思表示も必要なのは前述のとおりです。

その一方で、他の共有者が意思表示をできなかった場合、これまで意思表示しなくても固定資産税が減っていたのに、令和3年度からは減らないのですから、不利益なのは確かですよね。

そうすると、納税者側からどうやって意思表示するのかという問題があります。当然ながら、その方法は市町村側から情報提供があってしかるべきです。

そこで、各市町村のHPを調べてみましたが、概ね次のような内容でした。

  • 民法第441条の案内が確認できない(調査不足の可能性あり)
  • 案内はあるが減免に触れていない・減免されないとしている
  • 別段の意思・合意等があれば減免と案内している
  • 民法第441条の案内はないが減免申請書等に記載がある
  • 減免のページや別段の意思・合意等の書類を示している

民法第441条の案内が確認できない市町村

実は、ほとんどの市町村で、共有者への減免と民法第441条について、何も案内が確認できていません(インターネットで検索できる範囲では)。

単に手を抜いているのか、対象者が少ない(共有不動産かつ共有者に減免があるケースは少ない)ので、案内するほど重要視されていないのか、意図的に案内していないのか不明です。

したがって、このような市町村では、

  • 共有者への減免の効力が、他の共有者へ及ぶことに市町村は同意するのか
  • 市町村が同意するとしたら、他の共有者からどうやって意思表示すれば良いのか

これらを問い合わせてみる必要があります。

減免に触れていない・減免されないとしている市町村

民法第441条の案内をしているのに、減免には触れていない・減免されないとして市町村は、間違いなく減免する気が最初からありません

もちろん、債権者である市町村は、他の共有者への減免の効力に同意しなくても良いのですから、他の共有者が減免の効力を求めたところで、市町村は拒否できますし法律違反でもないです。

ただ、民法第441条ただし書き(別段の意思)による例外規定があるにもかかわらず、その点には触れず、納税者に不利益を受け入れるよう一方的に案内するのは、組織としてそういう体質であることの現れでしょう。

不利益の回避を意図的に案内していない(そもそも減免に同意する気がない)ので、納税者から減免の効力を求めても無駄だと思いますが、ダメ元で問い合わせるくらいはしてみたいですね。

別段の意思・合意等があれば減免と案内している市町村

納税者の不利益を排除するため、民法の改正があったことに加え、改正前と同様に減免の効力を生じさせる要件の案内は評価できます。

しかしながら、どうすれば減免できるのかという肝心の手続説明が欠けており、住民サービスを担う公共団体として情報発信の意識が低すぎるのは否めません。

もっとも、IT分野では世界に置きざりの日本において、しかも公務員に満足な情報発信を求めるのは、自虐的ですが酷だとも言えますし、問い合わせれば手続を教えてもらえそうなので、及第点ということにしておきます。

民法第441条の案内はないが減免申請書等に記載がある

減免される共有者が、減免申請書を提出することを踏まえると、他の共有者への減免の効力について減免申請書等に記載するのは、関係者だけに知らせる合理的な手段だと言えるでしょう。

減免申請書等による意思表示の方法としては、次のようなパターンがありました。

  • 他共有者への減免の効力発生に同意することがデフォルト(注意書き等のみ)
  • 他共有者への減免の効力発生に同意することをチェック等で記入
  • 他共有者の氏名等の記入欄を設けて意思表示させる
  • 別途同意書・申立書により意思表示させる
  • 減免される共有者が他共有者の同意を得て減免の効力発生の要請

減免のページや別段の意思・合意等の書類を示している市町村

数は少ないながらも、減免の効力が他の共有者に及ぶこと、つまり、市町村が減免の効力に同意することを前提に、減免するための手続についても案内しているケースがありました。

ちなみに、当サイト管理人が確認できたのは、わずか9市町村です(2022年7月16日確認)。

福島県南相馬市、茨城県下妻市、茨城県取手市、群馬県館林市、埼玉県川島町、千葉県佐倉市、大阪府藤井寺市、熊本県八代市、沖縄県北中城村

減免の対象者が少ない事案なのに、きちんと申請方法まで案内(またはリンク)している市町村は、あまりにもレアすぎて表彰モノです。というか、それが当たり前の対応なんですけどね。

まとめ

共有者が固定資産税を減免されたときの扱いは、民法改正で大きく変わりました。

他の共有者に減免の効力を生じさせるためには、市町村と他の共有者の双方が、減免の効力発生について意思表示しなくてはなりません

しかしながら、市町村が必ずしも他の共有者への減免の効力を認めるとは限らず、ほとんどの市町村では、納税者からの意思表示方法すら示されていないのが現状です。

もしかしたら、減免できると知らずに納付しているかもしれないので、共有者が固定資産税の減免を受けたら、必ず市町村に確認しましょう

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